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パーキンソン病に対する手術に関するストーリー
金子医師:神経内科の専門医。パーキンソン病の外科治療にも詳しい
丸山さん:パーキンソン病患者の娘で、母親の治療法について医師に相談中
丸山さん:
「金子先生、母は10年以上パーキンソン病の治療を受けてきましたが、最近薬が効きにくくなってきた気がします。手術が効果的と聞いたのですが、本当に安全なのでしょうか?」
金子医師:
「丸山さん、お母様のご様子を心配されるお気持ちはよく分かります。薬が効きにくくなるというのは、パーキンソン病が進行してくるとどうしても起きやすい状況です。そのような場合に検討するのが外科的治療、特に『深部脳刺激療法(DBS)』です。」
金子医師:
「深部脳刺激療法では、脳の特定部位に細い電極を埋め込みます。この電極が微弱な電気信号を送ることで、パーキンソン病の症状を緩和する効果が期待できます。特に振戦(ふるえ)や筋肉のこわばり、動きが遅くなる症状に効果的です。」
丸山さん:
「なるほど、電気で症状をコントロールするのですね。でも、脳に手を加えるというのは少し怖い気もします……。」
金子医師:
「確かに脳の手術にはリスクがあります。脳卒中や感染の可能性、術後の一時的な混乱状態などが挙げられます。ただし、経験豊富な専門チームで行えばリスクは最小限に抑えられますし、効果を実感される患者さんも多いですよ。」
丸山さん:
「母の場合、この手術が本当に合うのか、どうやって判断するのでしょうか?」
金子医師:
「まずは、現在の薬の効果と症状を詳しく評価します。また、認知機能や心臓などの他の健康状態も考慮します。DBSが適しているかは、これらの評価を基に総合的に判断します。適応がある場合は、症状改善の可能性が十分にあります。」
丸山さん:
「症状が改善するといっても、完全に治るわけではないですよね?」
金子医師:
「その通りです。パーキンソン病自体を根本的に治す治療ではありません。ただ、症状を軽減し、生活の質を大きく向上させることが目的です。」
丸山さん:
「もし手術を受けたら、その後の生活はどのように変わるのでしょうか?」
金子医師:
「術後は、埋め込んだ電極の刺激を細かく調整していきます。この調整によって、薬の量を減らすことができる場合もあります。また、リハビリや看護師によるサポートが重要です。お母様がご自身で動きやすくなるよう、専門チームでケアします。」
丸山さん:
「手術後も長期的なフォローが必要ということですね。」
金子医師:
「その通りです。手術をきっかけに、お母様の生活がより快適になるよう一緒に取り組んでいきましょう。」
パーキンソン病の手術について
歴史的背景:パーキンソン病手術の進化
1930年代、パーキンソン病の外科的治療が始まりましたが、結果は一様ではなく、副作用も多く報告されました。1960年代には、視床や淡蒼球といった脳の特定部位を破壊する手術が行われ、振戦や筋固縮の改善が期待されました。しかし、これらの手術は合併症のリスクが高く、広く普及するには至りませんでした。その後、1960年代後半にレボドパという薬が登場し、薬物療法が主流となり、手術は一時的に減少しました。
再び注目される外科的治療:1990年代以降の進展
1990年代に入り、脳神経外科の技術が大幅に進歩し、パーキンソン病の症状を引き起こす神経回路の理解が深まりました。これにより、外科的治療が再び注目されるようになりました。特に、脳深部刺激療法(DBS)は、薬物療法と組み合わせることで、症状の改善に大きな効果をもたらすことが期待されています。
現在の外科的治療法
脳深部刺激療法(DBS)
DBSは、脳の特定部位に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで症状を緩和する方法です。この手術は、振戦、筋固縮、無動などの症状に効果的とされています。手術後は、刺激の強度や周波数を調整することで、個々の患者に最適な治療が可能です。
DBSの対象となる特定の脳部位
脳深部刺激療法では、パーキンソン病の症状を引き起こす神経回路に関与する特定の脳部位に電極を埋め込みます。対象となる部位は以下のとおりです
1.視床(ししょう)
・振戦(手足のふるえ)の症状に特に効果的とされています
・視床は感覚情報の中継点であり、運動制御にも関与します
2.淡蒼球内節(たんそうきゅうないせつ, GPi)
・筋固縮(こわばり)や無動(動作の遅れ)に効果が期待されます
・GPiは運動の抑制と調整を行う役割を持っています
3.視床下核(ししょうかかく, STN)
・振戦、筋固縮、無動の全体的な改善に効果的です
・STNは運動制御の主要な部位であり、DBSの標準的なターゲットとなっています
DBS手術の手順
1.術前の評価
・MRIやCTスキャンを使って脳の構造を詳細に確認します。
・ターゲット部位を正確に特定するため、神経外科医と神経内科医が協力します。
・患者の薬への反応や認知機能、健康状態も事前に評価されます。
2.フレームの装着
・頭部にフレームを装着し、ターゲット部位を正確に狙えるようにします。
・フレーム装着後、CTやMRIを使用して脳内のターゲットを詳細に確認します。
3.電極の挿入
・小さな穴を頭蓋骨に開け、電極を挿入します。
・手術中に患者が覚醒している状態で、電極から微弱な電流を流しながらターゲット部位を特定します(マイクロ記録法を使用する場合があります)。
4.刺激装置の埋め込み
・胸部の皮膚の下にペースメーカーのような刺激装置(IPG: Implantable Pulse Generator)を埋め込みます。
・この装置と頭部の電極をリード線で接続します。
5.術後の調整
・手術後、刺激装置の出力(電圧や周波数、パルス幅など)を調整します。
・調整は数週間から数か月かけて行い、患者に最適な設定を見つけます。
電気刺激のかけ方と調整
DBSでは、以下のパラメータを調整することで、患者に最適な効果を発揮させます
1.刺激の強度(電圧または電流)
・症状を緩和するために適切な範囲で調整されます。
・高すぎると副作用(例えば筋収縮、発話困難)が生じる可能性があります。
2.周波数
・高周波(約130Hz以上)が一般的で、症状の抑制に有効とされています。
・低周波は時に特定の症状に使われる場合があります。
3.パルス幅
・電気刺激の持続時間を調整します。
・幅が広すぎると不快感を伴うことがあるため、症状改善と副作用のバランスを考えて設定します。
4.ターゲットエリア
・刺激のターゲットとなる電極の範囲を選択します。
・多極電極が使用され、刺激範囲を細かく制御できます。
DBSの効果と期待
・症状改善
振戦、筋固縮、無動が大幅に改善されることがあります。また、「運動のオン・オフ現象」が軽減され、患者の生活の質が向上します。
・薬物依存の低下
DBSにより、パーキンソン病治療薬(特にレボドパ)の使用量を減らすことが可能になる場合があります。
・リバーシブル性
DBSは電極の設定を変更することで調整が可能であり、不可逆的な破壊的手術(視床破壊術や淡蒼球破壊術)に比べて柔軟性が高い点がメリットです。
副作用やリスク
DBSは安全性が高い治療法ですが、以下のリスクが伴います。
感染症、術中の脳内出血、電極や刺激装置の故障、術後の精神症状(混乱、気分変調)
これらのリスクを最小限に抑えるため、熟練した外科医と多職種の医療チームによるサポートが欠かせません。
視床破壊術と淡蒼球破壊術
これらの手術は、脳の特定部位を破壊することで症状を改善する方法です。しかし、不可逆的な手術であり、合併症のリスクも高いため、現在ではあまり行われていません。
実験段階の治療法
神経細胞移植、成長因子の注入、遺伝子治療などの新しい治療法が研究されています。例えば、iPS細胞を用いた神経細胞移植の臨床試験が米国で開始されており、今後の成果が期待されています。 引用:幹細胞ネットワーク
外科的治療の利点とリスク
外科的治療は、薬物療法で効果が不十分な場合に有効な選択肢となります。しかし、前述した通り手術には脳卒中、感染、発話障害、行動の変化などのリスクが伴います。手術を検討する際は、これらのリスクと期待される効果を十分に理解し、医師と相談することが重要です。
適切な病院・外科医の選び方
手術を受ける際は、経験豊富な医師が在籍し、パーキンソン病の治療実績が豊富な医療機関を選ぶことが大切です。手術件数や成功率、合併症の発生率などの情報を確認し、信頼できる医療チームがいるかを判断材料としましょう。
最新研究と未来への展望
現在、パーキンソン病の外科的治療に関する研究が進んでおり、新しい治療法の開発が期待されています。特に、iPS細胞を用いた神経細胞移植や遺伝子治療など、根本的な治療を目指す研究が注目されています。これらの研究が進むことで、将来的にはより効果的で安全な治療法が提供されることが期待されます。
まとめ
パーキンソン病の外科的治療は、薬物療法で効果が不十分な場合に有効な選択肢となります。しかし、手術にはリスクが伴うため、医師と十分に相談し、適切な医療機関を選ぶことが重要です。最新の研究動向にも注目し、最適な治療法を選択することが、患者さんの生活の質の向上につながります。
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アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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