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脳卒中は、日本において要介護の主な原因の一つであり、早期対応と継続的なリハビリが非常に重要です。2018年に施行された「循環器病対策基本法」は、脳卒中を含む循環器病患者への支援体制を整備し、医療・介護サービスが切れ目なく提供される仕組みを推進しています。
この法律に基づき、多くの地域で活用されているのが「地域連携パス」という仕組みです。本記事では、地域連携パスを活用することで受けられる支援や、その利用方法について詳しく解説します。
地域連携パスとは、脳卒中などの患者が急性期病院から回復期リハビリ病院、そして在宅医療や介護サービスに至るまで、一貫した医療・介護サービスを受けられるようにする仕組みです。
患者の治療・リハビリの進行状況や必要なケアを記録した共通の計画書が使用され、関係する医療機関や介護施設が情報を共有することで、途切れのない支援が可能になります。
地域連携パスを活用することで、以下のような支援が受けられます。
①急性期から回復期へのスムーズな移行
● 急性期病院での治療が終わった後、患者の状態に応じてリハビリテーションを専門とする病院や施設に移ります。
● 地域連携パスにより、診療情報が円滑に引き継がれます。
②リハビリ計画の一元管理
● 患者の目標(例:歩行の回復、自宅での生活再開)を基に、各機関が一貫して治療やリハビリを提供します。
● 定期的にパスを更新することで、進捗を確認しつつ適切なケアを継続します。
③在宅医療や介護サービスとの連携
● 自宅に戻った後も、訪問リハビリや介護サービスを受けられるよう支援。
● 医療機関、訪問看護ステーション、地域包括支援センターが連携し、患者とその家族をサポートします。
①主治医に相談する
脳卒中で入院中の患者さんが地域連携パスを利用するには、まず主治医や病院の医療相談員に相談します。病院が地域連携パスの利用手続きを進めてくれます。
②退院後のリハビリ先を決定
退院後のリハビリをどこで行うか、主治医と相談して決定します。多くの場合、リハビリ専門の病院や在宅リハビリサービスが候補となります。
※退院後必ずしもリハビリテーションを行わなければならないというわけではありません。
③地域の連携機関との調整
病院やリハビリ施設、訪問看護ステーションなど、患者の状態に応じた支援機関が調整を行います。パスを使うことで、患者が自分で手続きする手間が大幅に軽減されます。
①急性期病院での診断と治療
発症直後は、急性期病院での治療(t-PA療法や手術、点滴治療など)が行われます。
②地域連携パスの作成
病院の医師や相談員が、患者の状態や治療計画を地域連携パスに記載します。
③回復期リハビリ病院での治療
退院後、リハビリ専門の施設で身体機能の回復を目指します。
● 自宅での生活を目指す場合は、訪問看護や訪問リハビリを利用。
● 必要に応じてデイケアや介護施設を利用する選択肢もあります。
脳卒中を患った後、適切な治療やリハビリを受けるためには、急性期から在宅復帰までの一貫した支援が重要です。地域連携パスを活用することで、患者と家族は安心して回復を目指すことができます。
もし脳卒中の経験がある方、またはご家族が心配な場合は、主治医や地域の医療機関に相談し、地域連携パスの利用を検討してみてください。
● 日本脳卒中協会
患者様やそのご家族には特におすすめ!!
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務後,
御茶ノ水でリハビリ施設設立 7年目
YouTube2チャンネル登録計40000人越え
アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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〒113-0033 文京区本郷2-8-1 寿山堂ビル3階
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電話番号:03-6887-5263
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2018年に施行された循環器病対策基本法は、脳卒中や心臓病といった循環器病に対する予防や早期対応、患者支援を全国規模で推進する法律です。この法律に基づき、国や地方自治体、医療機関が一体となって、循環器病による死亡や後遺症を減らすための取り組みが行われています。
特に脳卒中は、早期発見・早期治療が後遺症を軽減するために極めて重要です。この記事では、脳卒中の初期症状をいち早く見抜くための合言葉「FAST」について詳しく解説します。いざというときの知識としてぜひ覚えておいてください。
脳卒中は、時間との勝負と言われる病気です。発症後に適切な治療を早く受けることで、後遺症を軽減し、命を救える可能性が飛躍的に高まります。
ゴールデンタイムは発症後4.5時間!
脳梗塞の治療法である「t-PA(血栓溶解療法)」は、発症後4.5時間以内に行う必要があります。また、脳出血やくも膜下出血の場合も、早期の診断と手術が後遺症のリスクを大幅に下げます。
したがって、初期症状に気づき、迅速に行動することが家族や周囲の命を守る第一歩です。
「FAST」は、脳卒中の初期症状を簡単に覚えるための英語の合言葉です。この4つの文字に、それぞれ重要なポイントが含まれています。
F:Face(顔)
顔の片側がゆがむ、笑顔が左右非対称になるなどの症状が見られる場合、脳卒中の可能性があります。
チェック方法:笑顔を作ってもらい、左右の口角が同じ高さに上がるか確認しましょう。
A:Arms(腕)
腕に力が入らない、一方の腕が下がるなどの症状が現れることがあります。
チェック方法:両腕を水平に上げてもらい、片方が落ちてこないか確認してください。
S:Speech(言葉)
言葉がはっきりしない、ろれつが回らない、言葉が出てこないなどの異常があります。
チェック方法:簡単な言葉を繰り返してもらい、正常に発音できるか確認しましょう。
T:Time(時間)
症状が見られたら一刻も早く医療機関へ。発症時刻を確認し、救急車を呼びましょう。
これら4つのポイントを素早く確認することで、脳卒中の可能性を高い確率で察知できます。
1. 迷わず119番通報 脳卒中の症状が見られたら、すぐに救急車を呼びましょう。発症時刻を正確に伝えることが治療のカギになります。
2. 安静にする 無理に動かさず、平らな場所に寝かせて安静を保たせます。吐き気がある場合は横向きに寝かせましょう。
3. 頭を冷やさない 頭を冷やしても症状が改善することはありません。むしろ適切な医療機関への搬送が優先です。
4. 可能であれば症状を記録 症状の始まりや進行をメモしておくと、医師が迅速に診断を行う助けになります。
一度脳卒中を発症した方は、再発予防が極めて重要です。以下のポイントを参考にしましょう。
血圧管理:家庭での血圧測定を習慣にしましょう。
生活習慣の改善:減塩食や適度な運動を取り入れ、禁煙・適量飲酒を心がけます。
定期検診:医療機関での経過観察を続け、異常があれば早期に対応しましょう。
「FAST」の合言葉を覚えることは、脳卒中の初期対応において非常に大切です。初期症状をいち早く察知し、迅速に医療機関へ連絡することで、命を守り、後遺症のリスクを減らせます。
また、普段からの生活習慣の改善や健康管理が、脳卒中の予防や再発防止につながります。この機会に、自分や家族の健康について見直してみませんか?
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皆さんは「循環器病対策基本法」をご存じですか?この法律は2018年に制定され、脳卒中や心臓病といった循環器病を予防し、患者さんへの医療や福祉の質を向上させることを目的としています。特に脳卒中は、日本人の死因や要介護の主な原因の一つであり、発症を防ぐための対策が国全体で進められています。
この法律に基づき、私たち一人ひとりも生活習慣を見直すことで、脳卒中のリスクを大幅に減らすことができます。今回は、脳卒中を未然に防ぐための最新予防法やチェックリストをご紹介します。
高血圧
血圧が高いと血管に負担がかかり、動脈硬化が進みやすくなります。脳の血管が細くなったり弱くなったりすることで、詰まりや破れが起こりやすくなります。
糖尿病
血糖値が高い状態が続くと、血管の壁が傷つきやすくなり、動脈硬化の進行を早めます。糖尿病を放置すると脳卒中のリスクが大きく上昇します。
心房細動
不整脈の一種である「心房細動」は、血流が乱れやすいため血栓(血のかたまり)ができやすく、それが脳に運ばれて血管を詰まらせる場合があります。
喫煙・過度の飲酒・肥満
これらの要因は血管や心臓に大きな負担をかけます。喫煙は血管を収縮させ、過度の飲酒は血圧を上昇させ、肥満は生活習慣病を引き起こすリスク要因になります。
減塩&バランスの良い食事
減塩:一日6g未満を目指すのが理想です。味噌汁は具だくさんにして、塩分を控えめにすると続けやすくなります。
タンパク質と野菜をしっかり:魚や大豆製品、肉などの良質なたんぱく質と、野菜・果物からのビタミン・ミネラルをバランスよく摂取しましょう。
適度な運動
ウォーキングやストレッチなど、継続しやすい運動を取り入れるだけでも血圧の改善や体重管理に効果的です。週に3回以上、1回30分程度の運動を目安に続けましょう。
禁煙・適度な飲酒
禁煙は脳卒中リスクを大きく下げます。医療機関での禁煙外来を活用してみるのも一つの手です。
飲酒量はできるだけ控えめにしましょう。推奨量を超える飲酒は血圧の上昇に直結します。
定期的な健康診断
●高血圧や糖尿病など、異常値が出やすい人は年に1回以上の健康診断を受けましょう。
●早期発見・早期治療が脳卒中予防には欠かせません。
血圧・血糖値のセルフモニタリング
●血圧計や血糖値測定器を自宅で活用し、日々の数値を把握することが大切です。
●数値が高い場合は生活改善とあわせて医師に相談しましょう。
最新の治療・指導を受ける
病院の外来で生活習慣病指導を受ける、もしくは専門外来での血圧・血糖値コントロールを行うと、リスクを効果的に下げられます。
☑ 血圧・血糖値を定期的に測っている
☑ 1日6g未満の減塩を心がけている
☑ 週3回以上、1回30分の運動を取り入れている
☑ 喫煙・過度の飲酒を控えている
☑ 定期的な健康診断(少なくとも年1回)を受けている
☑ 心房細動などの不整脈が疑われる場合、専門医に相談している
☑ BMI(体格指数)を適正範囲(18.5~24.9)に保つよう努めている
これらの項目で「できていない」「不安だ」というものがあれば、まずは1つずつ習慣化できるよう取り組みましょう。
脳卒中は未然に防ぐことが十分に可能な病気です。普段からの生活習慣が大きく影響するため、無理のない範囲で継続可能な対策を取り入れていくことが重要になります。少しでも気になる症状や生活習慣病のリスクがある方は、早めに医療機関で相談し、適切な治療や指導を受けましょう。
・厚生労働省:循環器病対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/jyunkanki/index.html
・日本脳卒中協会
https://www.jsa-web.org/
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パーキンソン病の病期分類には、
「ホーエン・ヤールの重症度分類(ヤール重症度)」と「Movement Disorder Society Unified Parkinson’s Disease Rating ScaleTM(MDS-UPDRS)」の2つの尺度が使用されます。また「修正版ホーエン・ヤールの重症度分類」ではステージ1.5と2.5が追加され、より詳細な評価が可能となっています。
患者が入院したとき、入院中の看護師や医師が患者を採点し病期を分類することは必ずしも必要でもありませんが、採点に精通していると便利ではあります。
ホーエン・ヤールの重症度分類(ヤール重症度)は、運動症状に基づいて確立された1から5の病期分類を使用します。
ステージ1:症状は非常に軽度です。体の片側だけに手足のふる えや筋肉のこわばりがみら れます。一般的に、パーキンソン病によってひどく影響を受けることはありません。
ステージ1.5:症状は軽度ですが、片側性の症状に加え、体幹の関与があります。
ステージ2:両側の手足のふるえや筋肉のこわばりなどがみられます。バランスは損なわれていません。生活がやや不便となります。この段階は早期のパーキンソン病と見なされます。薬への依存は、後期ほど顕著ではありません。
ステージ2.5:軽度の両側性症状と、後方へのバランス障害がみられますが、自力で立ち直ることができます。
ステージ3:軽度~中等度の両側性の障害を来します。バランスの問題、小刻み歩行、すくみ足がみられます。生活に支障は出ていますが、介助はまだ要しません。パーキンソン病の症状によって影響を受け始めており、投薬に依存していきます。
ステージ4:重度の障害を来し、杖・歩行器または車椅子が必要な場合があります。日常生活の様々な場面に援助を必要とします。
ステージ5:非常に衰弱し、車椅子またはベッドで寝たきりの状態です。
MDS-UPDRS
ホーエン・ヤールの重症度分類(ヤール重症度)は、パーキンソン病の症状がどのように進行しているかを説明するのに適した方法ですが、それ以外の疾患の側面については考慮されていません。
認知状態、主観的状態、日常生活活動、客観的な行動など、さまざまな側面を考慮に入れた、より包括的な評価尺度であるUPDRS(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)が開発されました。
1. Part I: 非運動症状の評価
Part IA: 評価者が実施し、認知機能や行動、気分などを評価します。
Part IB: 患者や介護者からの報告を基に、睡眠障害や自律神経症状などを評価します。
2. Part II: 日常生活動作(ADL)の評価
患者が日常生活で経験する運動症状の影響を自己評価します。
3. Part III: 運動機能の評価
医療従事者が患者の運動機能を直接評価します。
4. Part IV: 治療に関連する合併症の評価
薬物治療に伴う運動合併症やジスキネジアの有無とその影響を評価します。
といった4つのパート合計42の評価項目からなります。
各項目は0(正常)から4(重度)までのスコアで評価され、総合スコアが高いほど症状が重いことを示します。MDS-UPDRSは、オリジナルのUPDRSと比較して非運動症状の評価項目が増加し、より包括的な評価が可能となっています。スコアが高いほど、パーキンソン症状が患者に与える影響が大きいという判断となります。
運動症状の調査では、はい/いいえで質問に答えます。2007年にUPDRSを改訂したので、今日使用するバージョンはMDS-UPDRSと呼ばれます。MDS-UPDRSスケールは、患者が薬を服用したとき、または深部脳刺激装置の埋め込み術を受けた時などに症状が改善したかどうかを追跡することもできます。
近年の研究では、MDS-UPDRSの各部分における重症度レベルのカットオフ値が提案され、軽度、中等度、重度の分類に役立てられています。例えば、Part I(非運動症状)のスコア範囲は0~16点で、4点以下が軽度、5~8点が中等度、9点以上が重度と分類されます。同様に、Part II(ADL)は0~52点で、13点以下が軽度、14~26点が中等度、27点以上が重度とされています。これらのカットオフ値は、臨床現場での患者の状態把握や治療計画の策定に有用です。
さらに、MDS-UPDRSの信頼性と妥当性に関する研究も進められており、各項目の内的整合性が高いことが確認されています。これにより、症状の経時的な変化や治療効果の評価において、MDS-UPDRSが有効なツールであることが示されています。
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パーキンソン病は、主に中脊黒質におけるドーパミン作動性神経細胞の損失を特徴とします。この病気には多様な前駆症状が含まれ、文字書能力の変化や小字症はそれらの中でも重要な要素です。その他のパーキンソン病における非運動症状の出現についてはこちらで詳しく解説しています。
渦巻きを描く能力の低下は、PD患者における運動の開始や継続、調整の困難さを反映しています。これらの障害は以下のような病態に基づいています:
・運動開始の困難(無動・寡動): ドーパミン作動性ニューロンの減少により、基底核-皮質ループが障害され、意図的な運動の開始が遅れます。
・運動の滑らかさの低下: 筋固縮や運動のリズム性の喪失により、一定の速度で連続した動きを維持することが難しくなります。
・振戦: 静止時振戦が渦巻きの線を不規則にし、形を維持する能力を低下させます。
渦巻き描画テストの意義
渦巻きを描くタスクは、PD患者の運動制御能力を評価するための簡便な方法として臨床で使用されます。
・テスト方法: 被験者に白紙や指定された渦巻き模様をトレースするよう指示します。トレースの精度、速度、線の滑らかさを観察します。
・評価項目:
線のゆがみ:線がどれほど正確に渦巻きの形状を維持しているか。
速度のばらつき:描画中の速度が安定しているかどうか。
筆圧の変化:筆圧が不均一な場合、筋力制御や感覚フィードバックの問題を示唆します。
小字症とは、文字を書く際に文字が異常に小さくなる現象を指し、パーキンソン病患者の50-70%に認められると報告されています。この現象は、無動、筋固縮、さらには手の精密な運動制御の障害が主な原因とされています。ドーパミンが関与する基底核の機能不全により、意図的な運動の開始および計画が困難となり、これが小字症の特徴的な症状を引き起こす要因と考えられます。
診断方法
小字症の診断には、実際に書かれた文字を解析する方法が有効です。方法は以下の通りです。
・連続書字試験:特定の文字を連続して書かせ、その文字の大きさと縮小率を測定する。
・文章書字試験:短い文章を書かせ、各文字の大きさや行間、文字間隔を解析する。
・デジタルペンの使用:壁力センサーや加速度計を搭載したデジタルペンを使用することで、筆圧、書字速度、運動軌跡などの詳細なデータを収集する。
治療・リハビリテーション方法
小字症に対する治療は、薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて行われます。
・薬物療法:レボドパやドーパミンアゴニストなどを投与することで、ドーパミン作動性神経伝達を補充し、運動症状の改善を図ります。ただし、小字症に対する効果には個人差が大きいとされています。
・書字訓練:マス目のある用紙を使用し、一定の大きさで文字を書く練習を行う。解析結果から視覧的フィードバックを生かした訓練が有効です。
参考文献
1.Quantitative Analysis of Bradykinesia and Rigidity in Parkinson’s Disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29568281/
2.Digitized analysis of handwriting and drawing movements in healthy subjects: methods, results and perspectives
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165027099000801
3.Validity and reliability of a new tool to evaluate handwriting difficulties in Parkinson’s disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28253374/
4.Neural correlates underlying micrographia in Parkinson’s disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26525918/
5.Gender-related differences in the burden of non-motor symptoms in Parkinson’s disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22237822/
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パーキンソン病(PD)は、主に運動症状が注目される疾患ですが、進行に伴い神経精神病学的問題が出現することが知られています。これらの問題は運動症状に先行する場合もあり、患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えるため、早期発見と適切な管理が重要です。
無関心は、患者が日常活動への興味ややる気を失う症状です。うつ病と非常に類似していますが、無関心の場合は情緒的苦痛を伴わない点が特徴です。例えば、以前は楽しんでいた趣味や社会的交流への関心が薄れますが、悲しみや無力感は伴いません。この症状はドーパミン経路の異常と関連しており、パーキンソン病の進行とともに顕著になります。
診断と管理
・無関心を診断するには、Apathy Evaluation Scale(AES)やその他の心理測定ツールが有用です。
・治療としては、プラミペキソールやロピニロールなどのドパミン作動薬が一定の効果を示す場合があります。また、モダフィニルのような覚醒促進薬が有効であることも報告されています。
・患者とその家族に対して無関心が疾患の一部であることを説明し、理解を深めることが重要です。
思考速度の低下は、PDにおける最も一般的な認知障害の一つであり、患者が情報を処理する能力が遅くなることを指します。例えば、会話の中で適切な言葉が思い浮かばず、コミュニケーションが困難になることがあります。この障害は患者の社会生活や仕事に重大な影響を及ぼします。
具体例
・家族や友人との夕食会で、会話のペースについていけなくなり孤立感を感じる。
・重要な意思決定が必要な場面で、情報を迅速に処理できないため困難を経験する。
管理の戦略
・定期的な神経心理学的評価を通じて、認知機能の進行をモニタリングします。
・認知リハビリテーションを通じて、記憶力や注意力を向上させるトレーニングを実施します。
・環境調整を行い、患者がゆっくりと意思決定できるよう支援します。
パーキンソン病に関連する認知症(PDD)は、疾患の進行とともに発症し、高次脳機能の低下を引き起こします。主に新皮質が影響を受け、記憶、注意、言語能力、視空間認知などが障害されます。進行は緩徐ですが、患者の独立性を大きく損ないます。
症状
・新しい情報を覚えることが困難になる。
・日常のルーチンを維持するのが難しくなる。
・視空間の認知障害により、運転や調理が困難になる。
治療アプローチ
・コリンエステラーゼ阻害薬(リバスチグミン、ドネペジル)を使用し、認知機能の低下を遅らせる。
・ケアプランを作成し、患者と家族の負担を軽減します。
精神病(Psychosis)
精神病は、PD患者の50%が経験する症状であり、幻覚、妄想、さらには行動の変化を引き起こします。これらの症状は疾患自体に起因する場合もあれば、治療薬(特にドパミン作動薬)の副作用として発生する場合もあります。
主な症状
・幻覚:主に視覚的なもので、人物や物体が見える。
・妄想:家族が敵対的であると感じるなど、非現実的な信念。
治療
・クエチアピンやピマバンセリンなどの非定型抗精神病薬が有効です。
・症状の重篤度に応じて薬物治療を調整し、副作用を最小限に抑えます。
入院中のPD患者はせん妄を発症するリスクが高く、環境の変化や薬剤の影響が主な原因となります。せん妄は一過性ですが、適切に管理しない場合、患者の予後に悪影響を及ぼす可能性があります。
管理
・入院中の環境を整え、刺激を最小限に抑える。
・ベンゾジアゼピンの使用を避け、非薬物療法を優先します。
睡眠障害はPD患者に非常に一般的であり、日中の眠気や集中力の低下を引き起こします。代表的な症状として、REM行動異常(REMBD)、夜間頻尿、睡眠の断片化が挙げられます。
治療
・REMBDにはクロナゼパムが有効です。
・睡眠環境の改善を推奨します。部屋を暗くし、規則的な就寝スケジュールを守ることが重要です。
自律神経障害は、血圧調整、消化、発汗などの機能に影響を与えます。特に起立性低血圧は転倒リスクを高めるため、慎重な管理が必要です。
治療
・血圧低下を防ぐためにフルドロコルチゾンやミドドリンを使用します。
・食事の際に塩分を増やす、弾性ストッキングを使用するなどの非薬物療法を併用します。
消化管の問題
便秘や胃不全麻痺はPD患者で非常に一般的です。これらは薬物吸収に影響を与えるため、特に注意が必要です。
治療
・水分と食物繊維の摂取を増やし、下剤を必要に応じて使用します。
・胃不全麻痺には、プロキネティック薬(例:ドンペリドン)が推奨されます。
1.”Apathy in Parkinson’s Disease: Defining the Park Apathy Subtype” (2022).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35884730/
2.”Cognitive Impairment in Parkinson’s Disease: An Updated Overview Focusing on Emerging Pharmaceutical Treatment Approaches” (2023).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37893474/
3.”Parkinson’s Disease and Dementia with Lewy Bodies: One and the Same” (2024).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38640172/
4.”Sleep disturbances, cognitive decline, and AD biomarkers alterations in early Parkinson’s disease” (2024).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38764318/
5.”Unraveling Autonomic Dysfunction in GBA-Related Parkinson’s Disease” (2023).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38026514/
6.”Gastrointestinal dysmotility in rodent models of Parkinson’s disease” (2024).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38261717/
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パーキンソン病は古くから「運動症状」が主たる病態と考えられてきました。しかし近年では「非運動症状(Non-motor symptoms)」の重要性が広く認識され、これらの症状が生活の質(QOL)低下に大きく寄与することが明らかになっています。
これを「氷山モデル」として考えます。すなわち、海面上に突き出ている氷山の“目に見える部分”が振戦(震え)や筋固縮、無動・寡動、姿勢反射障害といった運動症状である一方、海面下に隠れている遥かに大きな部分が、非運動症状の多彩な病態であると考えられています。
パーキンソン病患者の多くは、運動症状がはっきりと表出する時点より前に、さまざまな非運動症状を経験している可能性があります。これらは「前駆症状(prodromal symptoms)」とも呼ばれ、嗅覚障害・便秘・レム睡眠行動障害(RBD)・抑うつ・不安 などが代表的です。
さらに、病気の進行に伴い、自律神経症状(起立性低血圧、排尿障害、発汗異常、便秘など)や認知機能障害、精神症状(幻視、妄想、アパシーなど)が深刻化し、患者の生活を制限する大きな要因となります。最近の研究では、これら非運動症状が運動症状以上に患者のQOLを阻害するとの報告も増えています
非運動症状が生じる背景として、「ドーパミン(DA)系の変性」だけでは説明しきれない多領域・多神経伝達物質の関与が示唆されています。具体的には、以下のような神経伝達物質が低下し、それぞれが特有の非運動症状の発現や進行に寄与します。
●セロトニン(5-HT)
うつ、不安、睡眠障害などに深く関与。縫線核(raphe nucleus)の変性による枯渇が指摘されており、前駆期から精神症状を伴うケースが多く報告されています。
●ノルアドレナリン(NA)
覚醒レベルの制御や自律神経系の調整に寄与。青斑核(locus coeruleus)の変性による欠乏が起立性低血圧や自律神経症状の原因になり得ると考えられています。
●アセチルコリン(ACh)
中枢神経系では記憶や学習機能に密接に関与しており、これが低下すると認知症状や幻視が生じやすくなります。
●その他の神経伝達物質
グルタミン酸やGABA、ドーパミン以外のモノアミン類も含めて多彩なネットワークが影響を受けている可能性があります。
これらの変化はパーキンソン病におけるαシヌクレイン(α-synuclein)を中心とする病理学的変化が、ドーパミン作動性ニューロン以外にも波及している事実と一致します
近年の病理学的研究(Braakらによる病期分類など)によれば、パーキンソン病の変性は黒質緻密部(Substantia nigra pars compacta)にとどまらず、以下のような脳領域における神経変性を認めるケースが多いことが示唆されています。
縫線核(raphe nucleus) : セロトニン産生ニューロンが集積
青斑核(locus coeruleus): ノルアドレナリン産生ニューロンが集積
背側迷走神経核(dorsal motor nucleus of the vagus): 自律神経を司る核
シロオビ核(nucleus basalis of Meynert): アセチルコリン産生ニューロンが集積
これらの広範囲な変性が、非運動症状の発症および悪化に大きく寄与すると考えられています。初期には脳幹部や嗅球などから病理変化が始まり、徐々に上行して大脳皮質へ波及するため、運動症状の出現前に前駆症状としての非運動症状を認めることが多く報告されています
早期発見と前駆症状の評価
非運動症状の存在は、パーキンソン病の早期診断や治療のタイミングを検討するうえで重要な指標となります。特に嗅覚障害、RBD、うつ、不安などに着目することで、将来的なパーキンソン病の発症リスクを評価できる可能性があります
包括的な治療戦略の必要性
従来の治療はドーパミン補充療法(L-DOPAやドパミンアゴニスト)を主軸としてきましたが、セロトニン・ノルアドレナリン・アセチルコリンなど多様な系へのアプローチも考慮され始めています。例として、
・抗コリン薬による精神症状や認知機能の維持
・SSRI/SNRIなどを用いた抑うつ・不安症状の改善
・便秘対策にはプロバイオティクスや下剤の適切な活用
・起立性低血圧に対する昇圧薬や生活指導
といった多職種連携での治療やサポートが求められます
QOL向上とケアの最適化
非運動症状への適切な対応は、患者のQOL向上に直結します。認知機能障害、精神症状、自律神経症状などを総合的に評価し、必要に応じて専門医(精神科・心療内科・泌尿器科など)と連携したマネジメントを行うことが重要です。
パーキンソン病は“運動症状”という氷山の一角だけでなく、水面下に存在する多彩な“非運動症状”こそが患者の長期的なケアにおける大きな課題といえます。脳内のドーパミン枯渇だけでなく、セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなど複数の神経伝達物質が長期的に変性・低下するため、非運動症状は多面的かつ進行性に悪化し得ます。
最新の知見をもとに、早期発見、的確な評価、多様な治療戦略の検討が欠かせません。医療従事者がこの病態生理を理解し、非運動症状を含めた包括的なアプローチを実践していくことが、パーキンソン病患者のQOLと治療成績を高めるうえで最も重要です。
引用・参考文献
1.Chaudhuri KR, Healy DG, Schapira AH. Non-motor symptoms of Parkinson’s disease: diagnosis and management. Lancet Neurol. 2006;5(3):235-245.
https://doi.org/10.1016/S1474-4422(06)70373-8
2.Olanow CW, Stern MB, Sethi K. The scientific and clinical basis for the treatment of Parkinson disease. Neurology. 2009;72(21 Suppl 4):S1-S136.
https://doi.org/10.1212/WNL.0b013e3181a1d44c
3.Spillantini MG, Schmidt ML, et al. Alpha-synuclein in Lewy bodies. Nature. 1997;388(6645):839-840.
https://doi.org/10.1038/42166
4.Braak H, Tredici KD, Rüb U, et al. Staging of brain pathology related to sporadic Parkinson’s disease. Neurobiol Aging. 2003;24(2):197-211.
https://doi.org/10.1016/S0197-4580(02)00065-9
5.Postuma RB, Berg D, Stern M, et al. MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease. Mov Disord. 2015;30(12):1591-1601.
https://doi.org/10.1002/mds.26424
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パーキンソン病(Parkinson’s disease, PD)は、中枢神経系における進行性の変性疾患であり、運動機能に多岐にわたる障害をもたらします。以下では、運動障害を頭部から足先まで整理し、最新の知見と臨床的特徴を交えながら詳述します。
発声障害は、パーキンソン病患者の多くに見られる特徴的な症状の一つです。
主な症状:
・弱くかすれた声(hypophonia)
・単調で抑揚のない声
・構音の障害(articulation difficulties)
・音声振戦(voice tremor)
特徴的な障害:
・声量の減少により、日常会話が困難になる。
・言語障害として、適切な単語を見つけづらくなる言語流暢性の低下や、アクセントやリズムの崩れが生じる。
・吃音や繰り返し発話も報告される。
臨床的意義:
これらの症状は、患者のQOL(生活の質)に直接的な影響を与えるため、音声リハビリや補助的なコミュニケーション手段の導入が必要です。
嚥下障害は、パーキンソン病の進行とともに多くの患者で生じます。
主な症状:
・軽度の嚥下困難から深刻な嚥下障害まで多岐にわたる。
・食道の運動機能の低下による食物や液体の通過遅延。
臨床的特徴:
・食事中の咳や窒息のリスクが高まり、誤嚥性肺炎の主要な原因となる。
・重度の場合、経管栄養(胃ろうなど)が必要となる。
治療法と管理:
・嚥下評価(VFSSやFEES)を通じた状態把握。
・食事形態の調整や嚥下リハビリの実施。
仮面様顔貌(masked facies)は、パーキンソン病の典型的な症状です。
主な症状:
・表情筋の動きが低下し、顔の表情が乏しくなる。
・笑顔や悲しみなどの感情表現が制限される。
臨床的特徴:
・社会的な交流において、患者が感情を正しく伝えられない問題を引き起こす。
・非言語的コミュニケーションの障害として、患者の心理的負担を増加させる。
胃の不全麻痺は、パーキンソン病患者で頻繁に観察される自律神経障害の一つです。
主な症状:
・胃内容物の排出遅延に伴う消化不良。
・早期満腹感、吐き気、腹部膨満感。
臨床的影響:
・レボドパの吸収遅延により、薬効の発現が不規則になる。
治療法と管理:
・食事の頻度や量を調整し、小分けに摂取することを推奨。
・ドーパミン作動薬のタイミング調整が必要。
不随意運動は、主にレボドパ治療の長期使用によって引き起こされます。
主な症状:
・身体の一部が意図せず動いてしまう。
・手足や顔、体幹の異常な動きが特徴。
臨床的特徴:
・レボドパ誘発性ジスキネジア(LID)は、用量依存的に現れる。
・運動症状の波(ON/OFF現象)に関連。
治療法と管理:
・レボドパの投与スケジュールの調整。
・ドーパミンアゴニストやCOMT阻害薬の併用。
1.Postuma RB, Berg D, Stern M, et al. “MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease.” Movement Disorders. 2015;30(12):1591–1601.
https://doi.org/10.1002/mds.26424
2.Pfeiffer RF. “Non-motor symptoms in Parkinson’s disease.” Parkinsonism & Related Disorders. 2016;22(Suppl 1):S119–S122. https://doi.org/10.1016/j.parkreldis.2015.09.004
3.Jankovic J. “Parkinson’s disease: clinical features and diagnosis.” Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 2008;79(4):368–376.
https://jnnp.bmj.com/content/79/4/368
4.Kalia LV, Lang AE. “Parkinson’s disease.” The Lancet. 2015;386(9996):896–912.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(14)61393-3
5.Lim SY, Lang AE. “The nonmotor symptoms of Parkinson’s disease: An overview.” Mov Disord Clin Pract. 2017;4(6):825–837. https://doi.org/10.1002/mdc3.12550
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パーキンソン病(Parkinson’s disease, PD)は主に中脳黒質緻密部(substantia nigra pars compacta)のドーパミン作動性神経細胞脱落を特徴とする進行性神経変性疾患です。臨床的には運動症状(motor symptoms)と非運動症状(non-motor symptoms)の双方がみられ、これらを総合的に評価することで、診断精度が高まります。
パーキンソン病の代表的な4大運動症状
無動(Bradykinesia):
動作開始の遅延、運動速度や振幅の低下を含む動作緩慢が最も特徴的です。指間タッピングや前腕回内回外、開閉拳などの反復運動検査で明らかになります。
安静時振戦(Rest Tremor):
四肢や下顎、唇などが、安静時に4〜6Hz程度の振戦を呈します。典型的には「ピル・ローリング様振戦(pill-rolling tremor)」と呼ばれ、母指と示指が丸薬を転がすような動きを示します。ただし、振戦が軽度または非典型的である患者も多く、振戦がないことが必ずしもパーキンソン病除外を意味するわけではありません。
筋固縮(Rigidity):
他動的な関節可動時に一定の抵抗が生じ、いわゆる「歯車様固縮(cogwheel rigidity)」や「鉛管様固縮(lead-pipe rigidity)」が認められます。通常、左右非対称に現れることが多く、腋窩や肩甲帯周囲、下肢など幅広い部位が影響を受けます。
姿勢反射(保持)障害(Postural Instability):
パーキンソン病の後期段階でよく見られ、立位バランスの保持が困難となり、歩行時の不安定性や転倒リスクの増大をもたらします。特に後方への転倒(retropulsion)が典型的で、引っ張られた際にバランスを保てず倒れやすくなります。
姿勢反射障害とは別に「すくみ足(Freezing of gait)」という症状が出現します。これは患者が歩いている最中に「足が地面に張り付いている」感覚を感じることが多く、道の途中でフリーズしたり、立ち上がってそれ以上動くことができなかったりする状態です。病気が進行するにつれて症状は悪化し、多くの人は杖や介助に頼ることになります。4大徴候には直接該当しないことが注意点です!
診断上のポイントとして、パーキンソン病が疑われる場合には
・無動(Bradykinesia)が必須
・無動に加え、安静時振戦、筋固縮、または姿勢反射障害のうち少なくとも一つを満たすこと
これらを臨床的に確認することが基本となります。
パーキンソン病は主に臨床診断に基づきますが、近年、画像診断技術やバイオマーカー研究が進展しています。また、非運動症状(例:嗅覚低下、睡眠障害、便秘、抑うつ、認知機能低下、自律神経異常など)は、診断の補強材料となり得ます。
画像評価
DATスキャン(ドーパミントランスポーターSPECT)を用いると、線条体ドーパミン神経末端の減少を可視化できます。MRIは他のパーキンソン症候群(PSP、MSA、CBDなど)との鑑別に有用です。
超音波検査(Transcranial sonography)では、黒質エコージェニシティの異常増加が報告されていますが、診断精度には限界があります。
最新のバイオマーカー研究
アルファシヌクレイン(α-synuclein)の蓄積は病理学的特徴の一つであり、脳脊髄液中や生検標本中での測定が試みられていますが、診断的有用性は研究段階です。さらに、皮膚生検でのリン酸化α-シヌクレイン染色などが研究されており、将来的な早期診断・鑑別に期待が寄せられています。
国際的診断基準
運動症状を基盤としつつ、非運動症状や画像所見を考慮した「Movement Disorder Society (MDS)」による最新の診断基準が提唱されています。これらを用いることで、パーキンソン病と類似疾患との鑑別精度が向上しています。
鑑別診断
パーキンソン病には、進行性核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)、皮質基底核変性症(CBD)、血管性パーキンソニズム、薬剤性パーキンソニズムなどの鑑別が必要です。鑑別には、臨床症状の推移、画像所見、薬剤歴の詳細把握が不可欠です。
早期診断は、ドーパミン補充療法(L-DOPA製剤やドーパミンアゴニスト)およびリハビリテーション、運動療法などの介入戦略を適正な時期に開始するために極めて重要です。また、非運動症状への対処や多職種チームによる包括的ケアにより、患者のQOL向上が期待されます。
1.Postuma RB, Berg D, Stern M, et al. MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease. Movement Disorders. 2015;30(12):1591–1601.
https://doi.org/10.1002/mds.26424
2.Jankovic J. Parkinson’s disease: clinical features and diagnosis. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 2008;79(4):368–376.
https://jnnp.bmj.com/content/79/4/368
3.Kalia LV, Lang AE. Parkinson’s disease. Lancet. 2015;386(9996):896–912.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(14)61393-3
4.National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Parkinson’s disease in adults: diagnosis and management. NICE guideline [NG71]. 2017.
https://www.nice.org.uk/guidance/ng71
5.Tolosa E, Garrido A, Scherer K, et al. Diagnostic criteria of Parkinson’s disease. Handbook of Clinical Neurology. 2022;183:3–18.
https://doi.org/10.1016/B978-0-12-819999-0.00001-3
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特発性パーキンソン病(Idiopathic Parkinson’s Disease, PD)は、世界で最も一般的な神経変性疾患の一つであり、中脳黒質緻密部ドーパミン神経細胞の選択的変性とレビー小体(α-シヌクレイン封入体)の蓄積を病理学的特徴としています。(詳細は1時間目参照)
主な運動症状は、安静時振戦、筋強剛、寡動(無動)、姿勢反射障害で、進行に伴い非運動症状(自律神経症状、睡眠障害、嗅覚障害、軽度認知機能低下など)も顕在化します。特発性パーキンソン病は、L-DOPA(レボドパ)を中心としたドーパミン補充療法に比較的良好な反応を示すことが特徴です。
一方で、パーキンソン症候群(Parkinsonism)は、パーキンソン病以外の多様な原因疾患や病態により、パーキンソン病様の症状が出現する総称です。これらは二次性パーキンソン症候群とも呼ばれ、原因としては他の神経変性疾患(「パーキンソンプラス症候群」と総称される)、薬物性、血管性病変、精神疾患や代謝異常などが挙げられます。これらの症候群は、運動症状の様相や非運動症状、画像所見、薬物反応性、予後などがパーキンソン病と異なる場合が多く、診断と治療戦略において異なるアプローチが求められます。
進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy, PSP)
PSPは中脳・上丘の変性を特徴とし、下方視が特に困難になる垂直性核上性注視障害が初期から顕著にみられることが多い疾患です。姿勢保持障害が早期から明瞭で、転倒リスクが高く、パーキンソン病と比較してL-DOPAへの反応性は低いことが一般的です。
多系統萎縮症(Multiple System Atrophy, MSA)
MSAはオリゴデンドログリア内にグリア性封入体(グリア内α-シヌクレイン)を有する疾患群で、パーキンソニズム(MSA-P型)、小脳失調(MSA-C型)、自律神経障害などを呈します。初期から顕著な自律神経症状(起立性低血圧、排尿障害など)や急速な進行が特徴で、L-DOPAへの反応は限定的です。
大脳皮質基底核変性症(Corticobasal Degeneration, CBDまたはCBGD)
CBDは、片側性に強い運動障害、ジストニア、失行症が特徴的で、「エイリアンハンド症候群(勝手に動く手)」といった特異的症状がみられることがあります。病変は皮質および基底核系が広範に及び、L-DOPA抵抗性で急速進行が多いです。
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies, DLB)
DLBは、早期から幻視や幻覚、精神症状、注意力・認知機能の変動を伴います。パーキンソン病との大きな違いは、パーキンソン症状と認知症状がほぼ同時期(1年以内)に出現する点です。薬物療法には注意が必要で、一部の抗精神病薬への感受性が高く副作用が出やすいことがあります。
薬物性パーキンソニズム(Drug-induced Parkinsonism)
抗精神病薬(特に定型抗精神病薬)、制吐薬(メトクロプラミドなど)、一部の降圧薬やカルシウム拮抗薬などが原因で、パーキンソン症状を呈することがあります。薬剤中止や変更で症状が改善することもあり、画像検査で黒質線条体系の変性所見が明らかでない場合もあります。
血管性パーキンソニズム(Vascular Parkinsonism)
繰り返し起こる小さな脳血管障害が白質に累積し、歩行障害(「歩行失行」)を主徴とするパーキンソニズムを呈することがあります。一般的に上肢の振戦が目立たず、下半身優位の運動症状が多く認められることが特徴的で、画像上で白質の高信号変化を伴うことがあります。
・進行速度の違い
パーキンソン病は多くの場合、数年から数十年にわたりゆるやかに進行します。一方でパーキンソン症候群、特にPSPやMSA、CBDなどのパーキンソンプラス症候群では進行が比較的急速で、機能障害が短期間で増悪する傾向があります。
・薬物療法に対する反応性
特発性パーキンソン病はL-DOPAへの反応性が高く、症状改善が比較的明瞭に得られます。これに対してパーキンソン症候群ではL-DOPA治療への反応が乏しいか、まったく認められないことが多く、診断上の手がかりとなります。
・画像およびバイオマーカーの活用
近年では、DATスキャン(ドーパミントランスポーターイメージング)やMIBG心筋シンチグラフィー、自律神経機能検査、皮膚生検によるリン酸化α-シヌクレインの検出などが診断の補助的手段として検討されています。また、超高磁場MRIによって、中脳被蓋部(midbrain)や被殻、被殻外側縁、橋底部の変性所見など、各疾患に特徴的な画像パターンが示唆され、鑑別診断に寄与します。
近年、遺伝子検査やプロテオミクス、メタボロミクスといったオミックス解析、体液・末梢組織バイオマーカーの探索、超早期診断マーカー(網膜イメージング、皮膚・唾液腺生検)などの研究が進展しています。また、パーキンソン病とパーキンソン症候群の境界を明確にするため、様々な国際的研究コンソーシアムが大規模コホート研究や前向き研究を行い、診断精度向上や疾患修飾療法の開発に向けたエビデンス蓄積が続けられています。
1.Bloem BR, Okun MS, Klein C. Parkinson’s disease. Lancet. 2021 Jun 12;397(10291):2284-2303.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00218-X
2.Stamelou M, Hoeglinger GU. Atypical parkinsonism: an update. Curr Opin Neurol. 2022 Aug;35(4):562-568.
https://doi.org/10.1097/WCO.0000000000001071
3.Armstrong MJ, Okun MS. Diagnosis and Treatment of Parkinson Disease: A Review. JAMA. 2020 Feb 11;323(6):548-560.
https://doi.org/10.1001/jama.2019.22360
4.Postuma RB, Berg D, Stern M, et al. MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease. Mov Disord. 2015 Oct;30(12):1591-1601.
https://doi.org/10.1002/mds.26424
5.Gilman S, Wenning GK, Low PA, et al. Second consensus statement on the diagnosis of multiple system atrophy. Neurology. 2008 Aug 26;71(9):670-676.
https://doi.org/10.1212/01.wnl.0000324625.00404.15
6.日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
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