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1時間目:パーキンソン病の病態を再考:レビー小体とα-シヌクレインの最新知見
パーキンソン病の病態生理とBraak仮説:レビー小体の役割を中心に
パーキンソン病(PD)は、主に中脳黒質のドーパミン作動性ニューロンの減少により、運動機能障害を引き起こす進行性神経変性疾患です。近年、非運動症状の重要性が高まり、早期診断や疾患進行を遅らせる新たな治療法の開発が注目されています。ここでは、PDの病態生理、レビー小体とα-シヌクレインの役割、そしてBraak仮説を中心に、最新知見を交えた解説を行います。
パーキンソン病の病態生理
ドーパミン作動性ニューロンの減少とその影響
PDの主要な特徴は、中脳黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンの著しい減少です。この減少により、線条体へのドーパミン供給が不足し、運動制御に関与する基底核回路の機能が低下します。その結果、振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害といった運動症状が発現します。
レビー小体とα-シヌクレインの形成機序
レビー小体は、PDにおける病理学的特徴であり、神経細胞内で形成される異常タンパク質凝集体です。その主要成分であるα-シヌクレインは、通常シナプス機能を担うタンパク質ですが、異常に凝集・リン酸化することで毒性を発揮します。これが神経細胞の機能障害や細胞死を引き起こし、PDの進行を促進します。
Braak仮説と病理進展
Braak仮説の概要
Braak仮説は、PDの病理進展が特定の順序で進むと提唱しています。この仮説によると、α-シヌクレインの病変は末梢自律神経系や嗅球から始まり、脳幹を経て大脳皮質に至ります。この進展パターンは、非運動症状や運動症状の出現順序を説明します1)
病変のステージングと中枢神経系への広がり
Braak仮説は、PDの病理進展を6つのステージに分類します。
ステージ1 : 嗅球や延髄の背側核に病変が出現。
ステージ2 : 橋被蓋核や青斑核に病変が進展。
ステージ3: 中脳黒質に病変が到達し、運動症状が顕在化。
ステージ4: 辺縁系や扁桃体に病変が拡がる。
ステージ5: 前頭前野や高次皮質領域に病変が進行。
ステージ6: 全脳に病変が拡大し、重度の認知機能障害が発現。
このステージングは、病理学的観察と臨床症状出現順序の関連性を示すモデルとして広く支持されています。
図:文献1)より引用
非運動症状と早期診断の重要性
前駆症状としての便秘、嗅覚障害、睡眠障害
PD患者の多くは、運動症状が顕在化する10~20年前から便秘、嗅覚低下、REM睡眠行動異常(RBD)といった非運動症状を経験します。これらの症状は、PDの早期診断における重要な手がかりとなります1)
バイオマーカー研究の最新動向
血液や脳脊髄液中のα-シヌクレインを利用したバイオマーカー研究は、パーキンソン病(PD)の早期診断や進行度の評価において注目されています。特に、α-シヌクレインの一部がリン酸化されることが病気の進行に関与している可能性が示されています。最新の研究によると、α-シヌクレインの64番目のアミノ酸(スレオニン:T64)がリン酸化されると、通常とは異なる形状のタンパク質が作られることが分かっています。この特殊なタンパク質は神経にダメージを与える可能性が高いことが動物モデルや患者の脳組織で確認されています。こうした知見から、T64リン酸化α-シヌクレインがPDの進行を予測する新たな指標となる可能性が期待されています2)。
まとめ
PDの病態理解は、レビー小体とα-シヌクレインに焦点を当てた研究により進歩しています。これに基づく非運動症状の早期発見は、疾患進行を遅らせる新たな治療法の基盤となります。今後、疾患修飾療法や個別化医療の発展が期待され、患者の生活の質向上に寄与する可能性があります。
引用・参考文献
1) Pubmed:Braak Hypothesis in Parkinson’s Disease
・国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 (AMED): 健診データから分かったパーキンソン病の早期変化
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