脳卒中後のクロートゥに関するストーリー
登場人物
金子医師(脳卒中患者の治療に詳しい医師)
丸山さん(脳卒中後に足趾の丸まりに悩む患者さん)
金子医師:「こんにちは、丸山さん。今日は足趾の丸まりについて気になっているとお聞きしましたが、痛みや歩きづらさなど、どんな症状が出ていますか?」
丸山さん:「はい、歩いているときに足の指が丸まって、踏ん張りが効かなくなる感じです。それに痛みもあって、歩くのがちょっと怖くなってきました。」
金子医師:「そうですね。丸山さんのように脳卒中後に足趾が無意識に丸まってしまう症状を『クロートゥ』と呼びます。脳から筋肉に適切な信号が届かなくなり、筋肉が過剰に緊張してしまうことが原因です。」
丸山さん:「脳から筋肉への信号ですか… それって自分でどうにかすることは難しいんですか?」
金子医師:「確かに、脳が再び筋肉をコントロールするには少し時間がかかりますが、治療の方法がいくつかあります。一緒にその方法を見ていきましょう。」
丸山さん:「お願いします。」
金子医師:「まずは、リハビリテーションです。これは、脳に筋肉をリラックスさせる指令を送りやすくするためのトレーニングで、最も負担が少ない方法です。時間をかけて練習することで、筋肉に『力を抜く』ことを学んでもらいます。」
丸山さん:「リハビリで治せるんですね。安心しました。」
金子医師:「はい、リハビリはじっくりとした回復をサポートしてくれます。ただし、毎日の練習が必要なので、地道に続けることが大切です。」
丸山さん:「他にはどんな方法がありますか?」
金子医師:「装具も効果的です。足関節装具(AFO)といって、足の曲がりや下がりをサポートするもので、爪先が丸まっている部分を安定させるものです。場合によっては、母趾球や小趾球にクッションが付いたパッドを装具に付けて、痛みを軽減することもできますよ。」
丸山さん:「それなら歩くときの痛みも少し楽になりそうですね。」
金子医師:「さらに、経皮的電気神経刺激療法(TENS)といって、電気の刺激で筋肉を動かし、リハビリの効果を高める方法もあります。リハビリと併用すると、脳からの指令を受け取りやすくする効果もあります。」
丸山さん:「機械の力で筋肉を刺激して、自然に動けるようにするってことですね。」
金子医師:「そうです。その通りです。」
丸山さん:「それでも症状が改善しない場合には、どうしたらいいですか?」
金子医師:「その場合は、ボトックスという薬を使って、筋肉の緊張を抑える方法もあります。脳卒中後の痙縮(けいしゅく)治療として上肢にも使用されている治療法で、足趾のクロートゥに効果があるケースも報告されています。丸山さんの状態を見ながら、必要があれば検討できますよ。」
丸山さん:「そんな方法もあるんですね。いろいろな治療法があるなら、少し安心です。」
金子医師:「はい。いくつかの方法を組み合わせながら、丸山さんに合った治療を見つけていきましょう。少しずつではありますが、痛みや歩行の改善が期待できます。焦らず、ゆっくり進めていきましょう。」
丸山さん:「ありがとうございます。なんだか前向きに取り組めそうです。」
脳卒中後のクロートゥについて
1. はじめに
脳卒中を経験された方の中には、足趾(あしゆび)が丸まってしまう「クロートゥ」と呼ばれる症状が現れることがあります。これは、脳と筋肉のコミュニケーションエラーによるものです。歩行や日常生活に支障をきたすことが多く、痛みも伴うことから、改善を目指した治療が重要です。
2. クロートゥの原因と影響
クロートゥは、脳卒中によって脳から筋肉への信号が適切に伝わらなくなることで発症します。その結果、足の筋肉が過剰に収縮し、無意識のうちに足趾が曲がった状態が続きます。これは脳からの「リラックス」という指令が筋肉にうまく伝わらないためです。症状が現れる時期は個人差があり、脳卒中後数ヶ月で起こる場合もあれば、数年後に突然現れることもあります。クロートゥは特に歩行時の痛みを引き起こし、歩きづらさや転倒のリスクを伴うこともあります。
3. クロートゥの主な治療法
リハビリテーション
リハビリテーションは、クロートゥに対して最も侵襲の少ない治療法です。脳の再学習を促し、筋肉の過剰収縮を抑える効果が期待できます。リハビリによって筋肉を使うトレーニングを繰り返すことで、足の筋肉に対して「リラックス」の指令を出せるようになる可能性があります。これにより、クロートゥの症状緩和が期待されます。
装具の利用
リハビリが難しい場合や歩行サポートが必要な場合、足関節装具(AFO:ankle-foot-orthosis)が役立つことがあります。装具は、足を適切な位置に保持し、足趾の曲がりや足の不安定さを軽減するサポートを提供します。特に爪先までサポートがある装具や、母趾球・小趾球にクッションが付いた「メタタルザルパッド」を併用することで、痛みの緩和と歩行の安定が期待されます。
電気刺激療法
経皮的電気神経刺激療法(TENS)は、神経や筋肉を電気で刺激する方法です。特に麻痺した下肢に対して意識的な筋収縮を引き起こすのに役立ちます。リハビリと併用することで、筋肉への反応を引き出しやすくする追加のオプションとして効果的です。
電気治療の手順を以下に提示します。
1. 準備
・専門家との相談:TENSの使用は、個人の状態に応じて異なります。必ず医療専門家またはリハビリ担当者に相談して、最適な設定を確認してください。
・機器の準備:TENS機器と電極パッドを用意します。
・体勢を整える:下肢にアクセスしやすいように、座るか横になって、リラックスした姿勢で準備しましょう。
2. 電極パッドの配置
・筋肉の場所を確認:リハビリ担当者が電極を配置する筋肉の場所を教えてくれるので、麻痺した脚の主要な筋肉に合わせてマークします。
・電極パッドを貼る:筋肉の上に、適切な位置で電極を貼り付けます。
3. 機器の設定
・パラメータの設定:治療の目的(筋肉収縮や痛み緩和など)に応じた強度、パルス幅、周波数を設定します。
・低い強度から始める:最初は低い強度で始め、慣れたら少しずつ快適な範囲で強度を上げます。
4. セッションの実施
・セッション時間:TENSセッションは通常15〜30分です。無理のない範囲で行い、筋肉の疲労を避けましょう。
・筋肉の動きを確認:刺激によって筋肉が収縮するのを感じながら、可能であれば動きに意識を向けると効果が高まります。
・軽い運動との併用:可能であれば、専門家の指導のもとで軽い運動も加えると、筋肉の再教育に役立ちます。
5. セッション後のケア
・機器の電源を切る:電源を切ってから電極を外すと安全です。
・肌の状態をチェック:赤みや刺激がないか確認し、必要であれば保湿クリームを塗りましょう。
・効果の確認:定期的にリハビリ担当者と進捗を確認し、感覚や動きの変化について話し合います。
ボトックス療法
ボトックスは、筋肉の緊張を和らげる効果があり、特に脳卒中後の痙縮(けいしゅく)に対して使用されています。足のクロートゥに対しても有効な場合があるため、医師と相談し、適応可能かどうか確認するのも良い選択肢です。
1. 準備
・専門家との相談:ボトックス治療の適用には医師の診断が必要です。治療の目標や期待する効果について、医師に確認しましょう。
・治療部位の決定:医師が痙縮のある筋肉を評価し、ボトックスを注射する部位を特定します。
2. 注射の準備
・患部の消毒:感染を防ぐため、注射部位をしっかりと消毒します。
・ボトックスの希釈:ボトックス製剤は希釈してから使用され、筋肉の状態や治療範囲に応じて適切な量を調整します。
3. 注射の実施
・ボトックス注射:痙縮のある筋肉に直接ボトックスを注射します。注射の回数や部位は、治療計画に基づきます。
・リアルタイムでの筋電図ガイド(場合に応じて):特に深層の筋肉に注射する際は、筋電図(EMG)などのガイドを用いることがあります。これにより、注射位置の正確さが高まります。
4. 治療後のケア
・安静にする:注射直後は、強い運動や患部を押したりする行為は避けます。
・効果の観察:ボトックスは注射後数日から1週間程度で効果が現れます。通常、約3~4か月間、効果が持続します。
・経過観察と再評価:治療の効果が落ち着いたら、医師と経過を確認し、次回の治療時期や追加のリハビリ計画について話し合います。
5. リハビリとの併用
・ボトックスとリハビリの併用:ボトックス注射後、筋肉の過剰な緊張が緩和された状態でリハビリを行うと、さらに効果的です。リハビリでは、適切なストレッチや軽い筋力トレーニングを取り入れることが推奨されます。
4. まとめ
クロートゥは、脳卒中後に発生しやすい症状の一つですが、適切な治療を通じて日常生活や歩行の質を改善することが可能です。個々の状態に合わせた治療方法を選び、医師やリハビリ専門家と連携しながら対応することで、より快適な生活を目指すことができます。
5. 参考・情報源
1)日本脳卒中学会
脳卒中に関する総合的な情報を提供しています。
https://www.jsts.gr.jp/学会
2)日本リハビリテーション医学会
リハビリテーション治療の最新情報やガイドラインを閲覧できます。
https://www.jarm.or.jp/
3)厚生労働省:脳卒中のリハビリテーション
脳卒中患者のリハビリテーションに関する情報が掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/index.html
4)日本義肢装具学会
足関節装具や装具療法に関する情報が得られます。
https://www.jspo.jp/
5)日本ボツリヌス治療学会
ボトックス療法に関する最新情報を提供しています。
https://www.j-neurotoxin-therapy.jp/
6)日本物理療法医学会
電気刺激療法(TENS)などの物理療法に関する情報が掲載されています。
https://www.jseapt.com/
7)国立障害者リハビリテーションセンター
脳卒中後のリハビリテーションや装具に関する情報が豊富です。
https://www.rehab.go.jp/
退院後のリハビリは STROKE LABへ
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国家資格(作業療法士取得)
順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務後,
御茶ノ水でリハビリ施設設立 7年目
YouTube2チャンネル登録計40000人越え
アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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