薬剤誘発性の行動症状および精神症状
パーキンソン病の治療薬は、脳の化学物質に作用し、影響を与えるように作られています。結果として、鮮明な夢や悪夢、脅迫的ではありませんが幻覚、妄想(誤った理論から導かれた誤解)、パラノイア(偏執症、被害妄想)、混乱、および衝動制御障害:ICD(例えば、性欲亢進症、病的賭博、強迫観念的な爆買いや暴食)などの行動変容や精神症状を引き起こすこともあります。
薬剤誘発性の精神障害はパーキンソン病初期ではまれですが、疾患が進行するにつれてより多くみられるようになります。高齢者は、薬剤に起因する行動障害や精神症状の危険性が高くなります。進行期のパーキンソン病患者は、より長い期間にわたって薬剤を服用しており、より多くの薬剤を組み合わせて使用する必要があります。
パーキンソン病を治療するために使用される全ての薬剤は、行動変容や精神症状を生じる可能性があります。パーキンソン病の治療を受けている患者に薬剤誘発性の精神症状が現れた場合、症状を引き起こしている薬剤を中断すれば、症状は完全に解決することができます。
ただ、残念なことに、抗パーキンソン薬を中止すると、運動症状が増悪して薬剤の効果に満足ができなくなる可能性があります。しかし、薬剤の量を減らすか、投薬内容の変更が役立つことがあります。
特定の状況では、精神症状を明確に治療する薬物が必要です。精神症状の危険性があるため、パーキンソン病治療薬は低用量で開始し、慎重な観察の下でゆっくりと増加させていくべきです。
非常にまれですが、薬剤誘発性の行動変容が極端な場合には、重度に取り乱した状態となり、家族や介護者では抑制することが非常に困難な場合があることを知っておく必要があります。これは医療的緊急事態であり、薬剤が再調整されるまでの間、安全な環境にいられるように病院に入院する必要があります。
鮮明な夢
パーキンソン病を患っている人は時に鮮明な夢や悪夢をみることがあります。どちらも非常に現実に近い内容で、悪夢はかなり恐ろしいかもしれません。これらの夢は、現実と夢を混同するほど鮮明なものです。起きている間の幻覚の症状か、眠っている間の夢なのかを区別することが困難な場合があります。悪夢は眠っていても本人の暴力的な動きを伴うことがあります。
鮮明な夢では、誰かと話をしたり、大声で叫んだりすることもあります。叫んだり動いたりして身ぶり手ぶりで夢に反応することは、“REM睡眠行動障害”(REM:急速眼球運動)として知られています。それは隣で寝ているパートナーが別のベッドに移動したり、寝室を変えたりしなければならないほどの影響があるかもしれません。
REM睡眠行動障害は、パーキンソン病や他の神経変性疾患において共通の問題として認識されています。この障害は、他の症状の発症やパーキンソン病の診断よりも数年ほど先行する可能性があるので、抗パーキンソン病薬が単独では明らかに問題を引き起こしていません。
夜間に混乱が頻発する場合は、夜間の抗パーキンソン病薬を減らすか中止する必要があるかもしれません。それでも問題を緩和できない場合、日中の抗パーキンソン病薬の全体的な投薬量を減らすことも考慮する必要があるかもしれません。就寝時に低用量のクロナゼパムやメラトニンの使用は、REM睡眠行動障害を治療するために極めて有用である可能性があります。
視覚的幻覚
幻覚とは、実際にはそうではなくても、物体や人、空間などあらゆる物が存在しているという認識です。パーキンソン病患者では、(良いものでも悪いものでも)視覚幻覚は、聴覚幻覚(声や音楽が聞こえる)や触覚幻覚(皮膚に触れている感覚)よりもよくあることです。
進行期のパーキンソン病患者は、何年も前から抗パーキンソン病薬を服用しており、脅迫的ではないですがしばしば幻覚を見るようになっています。例えば、ソファーの上の枕が人の頭のように見えたり、裏庭の木は子供の集団に見えたりすることがあります。もう一つのタイプの幻覚として、「霊感」に近いものがあります。これは、人の肩の上や周囲に視覚で知覚されます。実際に作り出された知覚ではなく、一つの「感覚」です。
なかには視覚幻覚が見えていると理解している人もいるかもしれません。そうでない人は、実際のものとそうでないものとを区別するのが難しく、幻覚によって驚くことがあります。例えば、夕方自宅のリビングで座っている女性が、不思議な男が家の周りを歩いていたり、窓から覗いたりするのを見て、不安になることがあるかもしれません。ずいぶん前に家で亡くなった家族(多くの場合は両親)や小さな妖精の子供、ペット、昆虫など実際にはないもの見ることがあるといいます。
幻覚があるパーキンソン病患者において、幻覚と現実を区別することができない場合に、周囲が理解させようとすると困惑したり取り乱したりしてしまい、この混乱によって介護が困難になる可能性があります。ただ、一部の人たちは、アパートの中で「犬が追い回してくる」、「集団の人たちがいる」などの状況が実際の光景ではないことを十分に理解しており、不思議なことに彼らは幻覚に邪魔されていません。
家族が医者に言及することはめったにないので、医師が病歴を聞いているときに、幻覚の話を聞いて驚くことがよくあります。まれに視覚幻覚を有していても、特別な影響がないため治療を必要としない場合があります。このような問題を悪化させる可能性のある新しい抗パーキンソン病薬を追加するときは注意が必要です。
国家資格(作業療法士取得)
順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務後,
御茶ノ水でリハビリ施設設立 7年目
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アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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