ジストニアに関するストーリー
登場人物:
金子医師(ジストニアに詳しい神経内科医)
丸山さん(ジストニア症状に悩む患者さん)
金子医師:「丸山さんこんにちは。最近、体調はいかがですか?」
丸山さん:「ありがとうございます、先生。だいぶ良くなってきましたが、まだ動きにくい部分があって、時々手や足が勝手に動く感じがします。これがジストニアっていうものなんでしょうか?」
金子医師:「そうですね。脳卒中後の症状の一環として、ジストニアが現れることもあります。ジストニアというのは、筋肉が無意識に収縮するために、体が勝手にねじれたり固まったりする状態です。例えば、何かをつかもうとすると手がねじれるように動いてしまう、といった症状が出ることがあります。」
丸山さん:「それで手足が動きにくくなるんですね。でも、どうしてこんなことが起こるんでしょうか?」
金子医師:「ジストニアは、脳の中の動きをコントロールする部分に影響が出ることで、筋肉の動きがうまく制御できなくなるために起こるんです。丸山さんの場合は、脳卒中によってその部分が影響を受けた可能性があります。おそらく、脳内の伝達物質の働きが乱れているせいで、筋肉が意図せずに動いてしまうんですね。」
丸山さん:「なるほど…それでは治療方法はあるんでしょうか?」
金子医師:「治療法はいくつかあります。最初にお試ししやすいのは、筋肉の収縮を抑えるためにボツリヌス毒素、いわゆるボトックス注射を特定の筋肉に行う方法です。ボトックスは、筋肉に信号が伝わりにくくなるように働きかけるので、手足の異常な収縮が軽減される可能性があります。」
丸山さん:「ボトックスって美容にも使われているものですよね?」
金子医師:「そうです、実際に美容分野でも使われていますが、ジストニアの場合は特定の筋肉をターゲットにすることで、動きを楽にする効果が期待できるんです。他にも、症状が重い場合は、脳に電極を埋め込んで調整する『深部脳刺激療法(DBS)』も検討されることがあります。」
丸山さん:「深部脳刺激療法ですか?それはどんな感じなんですか?」
金子医師:「DBSは、脳の特定の部位に微弱な電気刺激を与えることで、症状の緩和を目指す方法です。この方法はジストニアのほかに、パーキンソン病にも使われることがあります。手術が必要にはなりますが、効果が高いとされていて、特に他の治療法が難しい場合に検討します。」
丸山さん:「色々な治療法があるんですね…でも、やっぱり副作用とかが心配です。」
金子医師:「それはよく理解できます。例えば、ボトックス注射では一時的に筋肉の力が弱まることがあり、DBSも施術には注意が必要です。副作用については事前に詳しく説明しますし、適切な治療法を選べるように一緒に検討しましょうね。」
丸山さん:「ありがとうございます、先生。話を聞いて安心しました。」
金子医師:「いいえ、お気軽に相談してくださいね。これからも一緒に改善を目指していきましょう!」
ジストニアについて
ジストニアは、筋肉の収縮が不随意に持続することで、異常な捻転(ねんてん)や姿勢を引き起こす運動障害の一種です。筋肉が勝手に収縮し続けるために、意図しない体のねじれや奇妙な姿勢が起こり、時には痛みを伴います。この状態は、脳の特定の部分に異常があるために発生しますが、詳しい原因は未解明な部分も多く、さまざまな神経学的疾患とも関連しています。
ジストニアは単独で発症することもあれば、パーキンソン病など他の神経疾患に付随して発症することもあります。たとえば、パーキンソン病ではジストニアが手や足に生じ、動きにくさや痙攣を引き起こすことがあります。ジストニアのタイプは、症状が身体のどの部分に現れるかや原因により細かく分類されており、治療や対応も異なる場合があります。
以下では、ジストニアの種類ごとにその特徴を説明していきます。
1.ジストニアの種類
全身性ジストニア
全身性ジストニアは、若年層で発症することが多く、特に20歳未満でよく見られます。このタイプのジストニアは、通常、足や腕の異常な動きや姿勢から始まり、徐々に体全体に広がる進行性の障害です。筋肉の収縮が持続するため、身体がゆっくりと捻れるような動作を伴います。患者さんの多くは歩行が困難になり、日常生活に大きな支障をきたします。
局所性ジストニア
局所性ジストニアは、体の特定の部位にのみ症状が現れるタイプで、成人期に発症することが一般的です。特定の動作や部位に限定されているため、他のジストニアよりも症状が限定的ですが、それでも日常生活に影響を与える場合が多々あります。
作業特異性ジストニア(例:書痙)
作業特異性ジストニアの一例として、「書痙(しょけい)」が挙げられます。これは、手や指が字を書く動作の際に限って不随意に動き、字を書こうとすると手が捻れてしまう症状です。特に作家や記者、学生など、字を書く動作を頻繁に行う人に見られることが多く、書こうとすると手が震えたり、痛みを感じたりすることもあります。書字以外の動作では通常通り手が動くため、作業の特異性が高い点が特徴です。
痙性斜頸(頸部ジストニア)
痙性斜頸は、首や頭が一方向に向けられるように筋肉が収縮し、異常な姿勢になるジストニアです。例えば、頭が左右どちらかに回旋したり、前方や後方に過剰に傾いたりします。首や肩の筋肉が過剰に収縮することで、強い不快感や痛みが生じることがあり、日常生活にも大きな影響を与えます。
下肢ジストニア
下肢ジストニアは、特に足や足首に症状が現れる局所性ジストニアの一種です。このタイプのジストニアでは、足趾が内側に巻き込まれるように動いたり、足首が内側にねじれてしまうことがあります。歩行時には痛みを伴い、普通に歩くことが難しくなるため、移動や日常生活に支障をきたします。
顔面ジストニア
顔面ジストニアは、顔の筋肉が不随意に動くことで発症します。顔面ジストニアには、さらに以下の2つの代表的なタイプがあります。
・眼瞼けいれん
眼瞼けいれんは、まぶたが不随意に閉じてしまうジストニアです。この症状はしばしば両目で起こり、目を開けようとしても無意識にま ぶたが閉じてしまいます。日常生活で目を開けるのが困難になるため、視覚障害や「機能的失明」と呼ばれる状態になることもあります。
・口下顎ジストニア
口下顎ジストニアは、口やあごの筋肉が不随意に収縮し、口が勝手に開閉する症状です。口の筋肉がひきつれたように動くため、顔全体がねじれるような感覚を伴うこともあります。この症状は話すことや食事に支障をきたし、患者さんの社会生活にも影響を与えることがあります。
2.ドーパ反応性ジストニア(DRD)
ドーパ反応性ジストニア(Dopa-Responsive Dystonia: DRD)は、遺伝的要因に基づくジストニアの一種で、ドーパミンの供給不足が原因となるタイプです。このジストニアは通常、若年期(10代)に発症し、特に脚のねじれや不安定な歩行から始まります。時間と共に体の他の部位にも症状が広がる場合がありますが、ドーパミン製剤で劇的な改善が見られることが特徴です
症状と特徴
DRDの症状は一日の中で変動しやすく、特に朝は症状が軽く、夕方や運動後には症状が悪化することが多いです。このため、運動後には歩行が困難になったり、足の捻転が顕著になったりすることが見られます。患者によっては、起床後の数時間はほぼ正常な動作が可能ですが、日が進むにつれて筋肉の収縮が強まり、動きづらさが増します。この特徴的な症状の変動により、DRDは他のジストニアと異なりやすく、診断の目安とされます。
診断と治療法
DRDの診断は、特に症状が若年期に出現し、日内変動がある点から推測されますが、正確な診断には遺伝子検査や専門的な神経診察が必要です。治療にはカルビドパやレボドパなどのドーパミン補充薬が使われ、これによって症状が劇的に改善します。DRDの患者は通常、少量のドーパミン製剤で効果を実感できるため、治療反応も確認しやすくなっています。長期的な治療で改善を維持できるため、患者にとって非常に有効な治療法です。
3.パーキンソン病とジストニア
ジストニアは、パーキンソン病と関連して現れることがあります。パーキンソン病の患者は、進行に伴って足や手にジストニアを経験することが多く、これは筋肉の緊張や収縮によって異常な姿勢を引き起こします。このような症状は、ジストニアが単独で現れる場合とは異なる特徴を持ちますが、両者の症状が類似しているため、診断が複雑になることも少なくありません。
パーキンソン病に伴うジストニアの特徴
パーキンソン病に伴うジストニアは、通常、足や手の筋肉が不随意に収縮することによって生じます。特に、親指が内側に曲がり、靴を押し返すような姿勢や、足が内側に捻れる症状が特徴的です。進行が進むと、ジストニアの症状は歩行や日常生活に支障をきたし、痛みも伴うことがあります。パーキンソン病が原因のジストニアは、抗パーキンソン病薬であるレボドパやドーパミンアゴニストの使用によって症状が緩和される場合があります。
若年発症型パーキンソン病とジストニア
若年発症型のパーキンソン病では、ジストニアが初期症状として現れることがあり、診断が難しくなることがあります。特に30代以下で発症するパーキンソン病はジストニアの症状を伴うことが多く、この場合、最初はジストニアとして診断されることがあります。若年型のパーキンソン病患者は、進行がゆっくりな場合が多いため、ジストニア症状が数年間続いた後に他のパーキンソン症状が見られるケースもあります。
薬剤誘発性ジストニア
パーキンソン病の治療には、主にレボドパやドーパミンアゴニストが使用されますが、これらの薬剤は長期使用によってジストニアを引き起こす可能性もあります。薬剤誘発性ジストニアは、特に薬の効果が切れる「オフ」状態で現れやすく、足や手が不随意に収縮し、動作が不安定になることがあります。薬の調整によって症状を緩和できる場合が多く、神経科医による適切な管理が必要です。
診断のポイント
パーキンソン病とジストニアを区別するためには、臨床的な評価やMRI検査、場合によっては遺伝子検査が行われることがあります。パーキンソン病は、神経伝達物質ドーパミンの不足が原因とされていますが、ジストニアの場合は原因がより複雑です。そのため、症状の現れ方や経過を観察し、総合的な診断が必要とされます。MRI検査や特定の遺伝子検査によって、ジストニアのタイプや原因が特定できることもあります。
4.ジストニアと他の神経学的疾患
ジストニアは、他の神経学的疾患と共存することがあります。このような疾患には、ジストニアとパーキンソニズムの両方の症状を呈する「ジストニア・パーキンソニズム共存症」が含まれ、若年層に多く見られる傾向にあります。これらの疾患は遺伝的要因によるものが多く、診断が非常に難しい場合もあります。
診断の難しさと最新の検査方法
複数の神経学的症状が共存する場合、診断は特に複雑です。従来の方法では、詳細な神経診察を行い、症状の進行状況や変化を観察しながら診断を進めていましたが、近年ではMRI検査や遺伝子検査によって、より正確な診断が可能になっています。MRIによる脳の構造の確認や、遺伝子検査による異常な遺伝情報の検出が、診断精度を向上させる手段となっています。
5.ウィルソン病
ウィルソン病は、銅代謝の異常によって銅が体内に蓄積し、脳や肝臓、腎臓、目などに影響を及ぼす稀な遺伝性疾患です。銅が過剰に蓄積することで、神経症状や肝障害を引き起こし、早期に診断し適切な治療を受けることが非常に重要です。症状は多岐にわたり、特に20代までに現れることが多いです。ウィルソン病は、パーキンソン病やジストニアと症状が似ているため、診断の際に特別な注意が必要です。
ウィルソン病とは
ウィルソン病は、遺伝的に銅の排出が困難になるため、体内の臓器に銅が蓄積してしまう疾患です。正常であれば、体内で使用されなかった銅は肝臓を経由して胆汁として排出されますが、ウィルソン病ではこの仕組みが機能せず、銅が過剰に溜まり続けます。銅が脳に蓄積することで、ジストニアやパーキンソニズム(パーキンソン病のような症状)などの神経症状が現れます。また、肝臓にも蓄積し、肝硬変や肝不全を引き起こすリスクが高まります。
症状とパーキンソン病との類似点
ウィルソン病の症状は、振戦(ふるえ)や動作の遅さ、筋肉のこわばり、歩行障害など、パーキンソン病の症状に類似しています。特に、若年層(通常は25歳以下)でこれらの症状が現れる場合、パーキンソン病ではなくウィルソン病の可能性も考慮する必要があります。ウィルソン病の患者は、パーキンソン病の患者よりもかなり若年で発症するため、年齢が診断の重要な手がかりとなります。
若年層における発症
ウィルソン病は通常、思春期から20代前半までの間に発症し、初期症状として振戦や動作のぎこちなさ、筋肉の緊張が増加する傾向があります。特に12〜14歳の間で肝臓症状が見られることが多く、神経症状は思春期後期から出現することが多いです。20歳未満で神経症状が見られた場合には、ウィルソン病の診断を検討するべきです。
診断の重要性と治療法
ウィルソン病の診断は、簡単な血液検査や尿検査で確認が可能です。また、角膜に「カイザーフライシャーリング」という銅の沈着物が見られることがあり、これは眼科検査で診断に役立つ特徴的な所見です。診断が遅れると、神経障害が進行し、不可逆的な損傷が発生する可能性があるため、早期診断が重要です。
治療には、銅の蓄積を減らすための薬剤や、食事療法が用いられます。銅の吸収を抑える亜鉛製剤や、銅の排出を促すキレート剤(ペニシラミンなど)が処方されることが一般的です。治療を早期に開始することで、症状の進行を止め、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。
6.まとめ
ジストニアは、さまざまな種類があり、単独で発症する場合もあれば、他の神経疾患に伴って生じることもあります。特に、パーキンソン病やウィルソン病のような神経疾患との関連は密接であり、診断の際には複数の検査が必要です。パーキンソン病やウィルソン病の症状が類似しているため、年齢や症状の変動、特定の検査結果を慎重に確認することが重要です。
治療に関しては、ドーパミン補充療法や、銅代謝異常を調整する薬剤など、疾患の種類や原因に応じた適切な治療法を選択することで、症状の進行を抑えることができます。最新のMRIや遺伝子検査の進展により、これらの疾患の診断精度はさらに向上し、より早期に適切な治療が提供されるようになっています。
参考文献・情報源
1.British Medical Bulletin – ジストニアの概要、最新の定義、臨床分類、病因について
→British Medical Bulletin
2.Frontiers in Neurology – 深部脳刺激療法(DBS)や遺伝子研究、国際的な治療ネットワーク「DystoniaNet Europe」について解説
→Frontiers in Neurology
3.Practical Neurology – ジストニアのボツリヌス毒素(BTX)療法や深部脳刺激(DBS)のメカニズム、適応について
→Practical Neurology
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