ハンチントン病に関するエピソード
金子先生(医師)
丸山さん(患者の娘)
金子先生:
「こんにちは、丸山さん。お父様がハンチントン病と診断されたとのことで、不安な気持ちだと思います。今日は、ハンチントン病とパーキンソン病の違いを中心に、詳しくご説明しますね。」
丸山さん:
「はい、ありがとうございます。実は、以前ネットで父の症状について調べていた時にパーキンソン病なのかもしれないと思ったことがあったのですが、実際の診断はハンチントン病で、正直違いがよくわからなくて……。」
金子先生:
「そのお気持ち、よくわかります。両方とも運動機能に影響を与える病気ですから、混乱するのは無理もありません。まず、ハンチントン病は遺伝的な要因が主な原因です。具体的には、HTT遺伝子の異常が引き金になり、神経細胞が徐々に壊れていくことで症状が出ます。一方、パーキンソン病は脳内のドーパミンが減少することで起こる疾患で、家族性のケースもありますが、遺伝が主な要因ではないことが多いです。」
丸山さん:
「なるほど。遺伝が関係しているかどうかが大きな違いなんですね。じゃあ、症状はどう違うんですか?」
金子先生:
「はい、症状にも違いがあります。パーキンソン病は、動作が遅くなったり、筋肉が固くなったりすることが特徴的です。そして、手が震える『振戦』がよく見られます。これが典型的な症状ですね。」
丸山さん:
「振戦って、ハンチントン病にはないんですか?」
金子先生:
「はい、ハンチントン病では振戦はほとんど見られません。その代わり、ハンチントン病の患者さんは、不随意運動、つまり自分の意思とは関係なく体が動いてしまう『舞踏運動』が特徴的です。手足や顔がまるで踊っているかのように動いてしまうんです。」
丸山さん:
「ああ、それならうちの父にも見られます…。その舞踏運動が原因で、パーキンソン病と混同されるんですね。」
金子先生:
「その通りです。ただ、振戦がないことや、発症年齢がハンチントン病は通常30~50歳で、若年性のケースもあることなどが鑑別の手がかりになります。逆に、パーキンソン病は一般的に50歳以上で発症することが多いです。」
丸山さん:
「年齢の違いもあるんですね。じゃあ、治療法はどうなんですか?似ているところはあるんでしょうか?」
金子先生:
「治療にも違いがあります。パーキンソン病では、レボドパという薬でドーパミンを補充する治療が行われますが、ハンチントン病には効果がありません。ハンチントン病では、舞踏運動を抑えるために、ドーパミンを減少させる薬、例えばテトラベナジンが使われます。最近は、遺伝子治療や小分子薬での治療も研究が進んでいて、これからの治療法に期待が高まっていますよ。」
丸山さん:
「遺伝子治療…未来に向けて希望があるんですね。詳しく教えていただいて、本当に安心しました。」
金子先生:
「どういたしまして。丸山さん、心配なことがあればいつでも相談してくださいね。これからもご家族をサポートするために一緒に考えていきましょう。」
1. はじめに
ハンチントン病、パーキンソン病、チック障害は、いずれも脳や神経系に影響を与える疾患であり、似たような症状を呈することがあります。そのため、時には誤診されることもありますが、各疾患にはそれぞれ特徴があり、正確な診断と治療が非常に重要です。本記事では、これらの疾患について最新の知見を含めながら、分かりやすく解説します。
2. ハンチントン病とは
ハンチントン病は、遺伝的要因によって引き起こされる進行性の神経変性疾患です。これは家族性に遺伝し、運動機能の障害や認知機能の低下、そして精神的な変化を伴います。発症は通常30歳から50歳頃で、徐々に症状が進行していきます。この障害の典型的な症状は、進行性の認知症と“ヒョレア”(ギリシャ語で舞踏病と言われている)と呼ばれる不随意な踊りのような運動の組み合わせです。
ハンチントン病の症状
認知機能の低下
ハンチントン病は、まず認知機能に影響を与えます。例えば、判断力の低下や記憶力の衰え、日常生活での注意力散漫などが初期症状として現れます。また、性格の変化やうつ症状もよく見られます。
不随意運動(舞踏運動)
この病気の特徴的な症状の一つが「舞踏運動」と呼ばれる不随意な体の動きです。これにより、まるで踊っているかのような不規則な運動が起こります。手足や顔が勝手に動くため、患者自身が制御できない状態になります。
発症年齢と遺伝的要因
ハンチントン病は、遺伝子の異常が原因で発症します。具体的には、HTT遺伝子が関与しており、この遺伝子が変異すると、脳内の神経細胞が次第に損傷を受け、症状が進行します。親がハンチントン病を持っている場合、その子供も50%の確率で発症するリスクがあります。
診断と遺伝子検査
現代では、遺伝子検査を通じてハンチントン病の診断が確実に行われます。家族にこの病気の歴史がある場合、早期に検査を受けることで、適切な治療やサポートが可能です。
3. パーキンソン病との混同
ハンチントン病は、時にパーキンソン病と誤診されることがあります。両者は共に運動機能に影響を与えますが、いくつかの違いがあります。
非定型的なハンチントン病とパーキンソン病の類似点
筋強剛と運動の減少
非定型的なハンチントン病では、パーキンソン病と同様に筋肉が硬くなり、動きが鈍くなることがあります。これにより、歩行がぎこちなくなり、日常動作が遅くなります。
振戦の有無
一方、パーキンソン病では、安静時に手足が震える「振戦」が典型的な症状として現れますが、ハンチントン病ではこの症状はほとんど見られません。
発症年齢の違い
また、発症年齢にも大きな違いがあります。パーキンソン病は通常中高年以降に発症しますが、若年性のハンチントン病は20歳未満で発症することもあります。
薬物療法による症状の混乱
レボドパと不随意運動
パーキンソン病の治療薬であるレボドパは、不随意運動(ジスキネジア)を引き起こすことがあります。これがハンチントン病の舞踏運動と似ているため、混同されることがあります。
ドーパミン拮抗薬とパーキンソニズム
一方で、ハンチントン病の治療に使用されるドーパミン拮抗薬やドーパミン枯渇薬(テトラベナジンなど)は、パーキンソニズムと呼ばれるパーキンソン病様の症状を引き起こすことがあります。
4. チック障害
チック障害は、突然かつ繰り返し現れる不随意な動きや音声が特徴です。短時間で終わることが多いですが、症状の種類や強度は個人によって異なります。
チックの定義と種類
単純チック
瞬きや肩をすくめるといった単純な動作が繰り返されるものです。
複雑チック
より複雑な動作や言葉を発するチックも存在します。例えば、特定の言葉を何度も繰り返したり、複数の動きを同時に行うことが含まれます。
トゥレット症候群
症状と特徴
トゥレット症候群は、運動チックと音声チックが複合して長期間続く疾患です。これらの症状はしばしば生活に支障をきたすことがあります。
強迫性障害との関連
トゥレット症候群の患者は、しばしば強迫性障害(OCD)を併発します。何度も手を洗う、ドアを閉めたか確認するなど、強迫的な行動が見られることがあります。
チックとパーキンソン病の鑑別
チックはパーキンソン病の振戦と区別がつきやすいです。チックは一時的で突発的な動作であり、パーキンソン病の持続的な振戦とは異なります。
5. 薬物誘発性パーキンソニズム
ドーパミン系への影響
ドーパミン拮抗薬や枯渇薬は、脳内のドーパミン量に影響を与えるため、パーキンソニズムの症状を引き起こすことがあります。
治療薬と副作用
- ドーパミン拮抗薬:抗精神病薬として使用されることが多く、筋肉の硬直や運動障害を引き起こすことがあります。
- ドーパミン枯渇薬:ハンチントン病の治療に使われますが、抑うつや運動障害が副作用として出ることがあります。
6. まとめ
ハンチントン病、パーキンソン病、チック障害は、それぞれ異なる神経系疾患ですが、類似した症状があるために時折混同されます。正確な診断を受けることが、効果的な治療を行うための第一歩です。症状に気づいた場合は、早期の診察をお勧めします。
7. 最新の研究と治療法
現在、ハンチントン病に対する遺伝子サイレンシングや、パーキンソン病の幹細胞治療など、さまざまな新しい治療法が研究されています。また、チック障害に対しては認知行動療法(CBT)が効果を示しており、今後の治療法の進展が期待されます。
ハンチントン病の最新の治療と研究
ハンチントン病(HD)は、HTT遺伝子のCAGリピートが原因で発症する遺伝性神経変性疾患です。近年、遺伝子サイレンシング(RNA干渉)やアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いた治療が注目されています。これらの技術は、ハンチントンタンパクの異常な生成を抑制することで、病気の進行を遅らせる可能性があると期待されています(1)。
2024年には、イスラエルのWeizmann研究所が、血液脳関門を通過できる新しい小分子化合物(SPI-24とSPI-77)を発表しました。この化合物は、ハンチントン病の症状を軽減する可能性があり、動物実験では運動機能や感情機能の改善が見られました(2)。これらの進展は、ハンチントン病の家族にとって希望の光となっています。さらに、FDAが特定の遺伝子治療プログラムにファストトラック指定を付与しており、新たな治療薬の早期承認が期待されています(3)。
パーキンソン病の治療法と進展
パーキンソン病に関しては、ドーパミンを補充するための「レボドパ」が一般的な治療薬として使用されています。しかし、長期間の使用によってジスキネジア(不随意運動)が生じることがあり、これがハンチントン病の舞踏運動と類似しているため、誤診される場合があります。また、最近の研究では、細胞移植や幹細胞治療が注目されています。これは、ドーパミンを生成する神経細胞を再生させることを目的としています。動物実験の段階ではありますが、ヒトに対する臨床試験も進行中で、将来的に治療の選択肢が増える可能性があります(3)。
チック障害とトゥレット症候群の治療法
チック障害やトゥレット症候群は、運動チックや音声チックが特徴の疾患です。最近の研究では、認知行動療法(CBT)がチックの管理に有効であることが示されています。また、ドーパミン拮抗薬が治療に使用されることがありますが、これらの薬剤はパーキンソニズムを引き起こす可能性があり、パーキンソン病と混同される場合もあります(3)。
8.参考文献・リンク
(1)International Huntington Association
(2)https://www.embopress.org/doi/full/10.1038/s44321-023-00020-y
(3)https://www.neurores.org/index.php/neurores/article/view/721/701
国家資格(作業療法士取得)
順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務後,
御茶ノ水でリハビリ施設設立 7年目
YouTube2チャンネル登録計40000人越え
アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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