流涎と嚥下障害
中枢神経系に影響を及ぼす多くの障害によって流涎(唾液が垂れてくること)を引き起こし、唾液の管理が困難となり、嚥下の問題を引き起こします。これらの問題は、パーキンソン病の早期にはほとんど起こりませんが、多くの人たちは病気になって2年〜4年くらい経つと、日中の口腔内の過剰な唾液に気づき始めます。これは、筋肉の活動と同様に嚥下回数の減少によって、単純に嚥下の発生頻度が減り、口腔内で自然発生した唾液が溜まり始めるために起こります。
パーキンソン病の人たちは、“夜間流涎”と呼ばれる睡眠中に溜まった唾液が枕や寝具を湿らせて目を覚ますことがあります。より進行したパーキンソン病では、昼間も流涎が現れることがあります。流涎自体は危険なことではありませんが、多くの人たちはそれを恥ずかしいと感じています。
この問題を抱えている人は、普段からティッシュやハンカチを持ち歩き、口の周辺の余分な唾液を拭き取ります。嚥下を頻繁に刺激するためにあめ玉を舐めることが有効かもしれませんが、あめ玉を舐めると口の中の唾液量が増えるため、これは有用な治療法ではないと気づく人もいるでしょう。パーキンソン病の治療に使用される薬物の多くは口を乾燥させる傾向があるため、このようにして流涎の問題に取り組むことができます。
これらの治療に反応しない重度の流涎を経験した場合、舌の下にアトロピン点眼剤か唾液腺へのボツリヌス毒素を注射する治療があなたに役立つかどうか医師に相談してください。流涎を緩和するのに役立つ別の薬剤としてグリコピロニウム(商品名:シーブリ)があります。
一部の人たちにとって嚥下は非常に困難になることがあり、錠剤を飲み込むのに苦労したり、食べたり飲んだりするときにむせ込んだり、窒息することさえあります。嚥下自体が困難になると、適切な食事や十分な栄養を得ること、薬を服用することに問題が生じます。このような問題は体重減少につながる可能性があります。より深刻になって嚥下反射自体が損なわれると、食物の小片が肺に吸い込まれることがあります。これは潜在的に危険な問題です。嚥下に伴う重大な問題は、医師に報告しなくてはなりません。
幸いにも、パーキンソン病の段階によって嚥下障害を治療するには、多くの治療法が有効です。言語聴覚士は、口腔内や喉などの隣接する構造の機能を含む嚥下の仕組みを評価し、嚥下に役立つ食物の形態の変更や治療法を推奨してくれるでしょう。この症状はパーキンソン病の運動症状の治療に使用される薬剤にも反応する可能性があります。
睡眠パターンの崩壊
理由はわかっていませんが、パーキンソン病は睡眠パターンの崩壊と関連しています。日中は眠くなり、社交的な場面や食事中にうとうとして、眠ってしまう人もいます。この問題は、夜間に起きていて昼間に眠ってしまう“昼夜逆転”と呼ばれるほど深刻なことがあります。
しかし、夜間によく眠れる人でも、日中は過度に眠くなることがあります。彼らの眠気は、夜間起きていることや服用中の薬剤に関連している可能性があります。レボドパ/カルビドパおよびドパミンアゴニストには鎮静作用があるかもしれません。そのため、ごくまれに前兆がなく突然眠ってしまうことがあります。しばしば、眠気には前兆症状があります。周囲の人や他人にも害を及ぼす可能性のある状況(たとえば、運転中など)で眠りに落ちる可能性があるため、これらの症状を見落としてはいけません。抗パーキンソン病薬が問題を起こす原因である場合、非常に困難な状況です。
パーキンソン病患者は、日中に硬直して固まってしまうことを避けるためにこれらの薬物療法を必要としますが、これらの薬剤は鎮静作用を有する可能性があります。必ずしもそうとは限りませんが場合によっては、別の薬剤で投薬量や投薬時間を調節して眠気を緩和することができます。残念なことに、アンフェタミンやメチルフェニデート(日本での商品名はリタリン)などの覚醒剤の日常的な使用は、この問題の治療に効果的ではないことが多いですが、日中に睡魔や過度の眠気を抱える人たちには、低用量のリタリンが有益な場合もあります。モダフィニル(日本での商品名はモディオダール)も眠気を緩和するのに役立つ薬剤の一つです。
医師はこのような治療上の問題に直面すると、危険度と有益性の分析を行います。例えば、純粋なパーキンソン病でない人たちは、レボドパ/カルビドパやドーパミンアゴニストの恩恵を受けていない可能性があります。薬物が徐々に減量されて、覚醒状態が改善されても運動症状が悪化することはありません。
不眠症に使用する睡眠薬やうつ病に使用する抗不安薬、筋スパズム、疼痛、尿失禁などを治療するために使用される他の薬物もまた、日中の眠気に寄与し得ます。これらのタイプの薬物を注意深く減らすかなくすことは役立つかもしれません。
最も一般的なタイプの睡眠障害は、“睡眠の断片化”と呼ばれ、夜間に何度も目を覚まし、再び眠りにつくことが難しくなります。睡眠の断片化は治療が難しいかもしれません。身体の硬さや寝返りがうてずに不快感が生じて寝具に適応できないため、目を覚ます人もいます。一部の人たちにとって、振戦は睡眠の浅い段階で目を覚まし、再び眠るのを防ぐほど深刻です。就寝時に、長時間作用型のパーキンソン病治療薬(Sinemet CRは本邦では未発売)を服用することにより、筋硬直や不動、振戦が緩和される場合があります。また、夜間に即時放出型レボドパ/カルビドパ(商品名:メネシットやマドパーなど)を追加投与することも有効です。
はじめは眠りにつきにくい人もいますが、頻繁に目を覚まして眠ることができなくなります。運動症状に苦しんでいない場合は、他の原因を探す必要があります。多量のコーヒーや他のカフェイン飲料を飲んでいませんか? 夕方から夜にかけて覚醒剤としての働きがあるセレギリン(商品名エフピー)を服用していませんか? 日中に仮眠をとって十分な運動をしていないのではないですか? (もしそうなら、夜間に十分寝られるだけ疲れていないかもしれません)。健康な高齢者であっても、昼間に昼寝を多くして夜間は若い人よりも睡眠時間が短いこともあることを心に留めておいてください。
ここでは、パーキンソン病の人たちの睡眠を補助するために鎮静剤を処方することに消極的です。彼らはすでに脳機能に影響を与える薬を服用しているので、他の類似の薬剤を加えることは精神的に落ち込んでしまうかもしれません。睡眠薬は長時間効果が持続することがあり、服用すると翌日に意識障害や見当識障害が起こることがあります。これは、高齢者や既存の認知障害を有する人たちにはより頻繁に問題となります。
生活習慣を変えることは、睡眠障害に対する最初の最も適切な自己防衛になります。ほんの少しの変化からで大丈夫です。例えば、夕方から夜にかけてカフェイン飲料はやめて、より精神的・身体的な運動を行い、朝遅くまで寝ていることや日中の昼寝は避けて、夕食と一緒に一杯だけワインを飲んでみたり、クッキーや温かいミルクのような就寝前の軽食を試してみてください。一部の人にとっては、胃が満たされると睡眠を誘発してくれます。
国家資格(作業療法士取得)
順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務後,
御茶ノ水でリハビリ施設設立 7年目
YouTube2チャンネル登録計40000人越え
アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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