機能回復が難しい原因について
残念ながら、毎年何百もの新しい脳研究が可塑性の可能性を示しており、研究者はそれらをまとめようとしていますが、現実では脳卒中後に何百万人もの人が十分な機能運動を取り戻さず、不自由な生活を強いられています。脳という臓器は神経科学では解明が進んでいますが、脳以外の問題も機能回復を阻害することもあります。以下に例示します。
1つは生理学的問題です。脳卒中後は体力低下や日々の疲労により廃用傾向に陥りやすいといわれています。神経回路の再編成を行いたくても、集中的な訓練の基礎となる体力が不十分である場合があります。これでは特異的で集中的な、時には他の課題と併用した訓練を始めることはできません。機能訓練を行う前の準備状態も重要であることを頭に入れておいてください。
二つ目は心理的問題です。勤勉かどうか、意欲はあるか、動機はあるかといった点は定義が難しいですが、機能訓練に最も積極的に取り組める心理状態は必要不可欠です。
こういった問題により、実際に適切な機能回復に必要な訓練が十分にできる患者は少ない状況です。理学療法が利用できなくなった後に、セルフエクササイズを適切に実施できる方法を知らない人が多いかもしれません。彼らは医師に、回復の見込みがない、と言われたのかもしれません。
そして他人に依存することの方が簡単だと悟ったのかもしれません。また、自分で何かしら取り組むことが悪い結果を招く、と過剰に恐れている人もいるかもしれません。これは医者などから与えられた助言が、最新の脳卒中に関する科学的なレビュー文献に基づいていないことが原因で誤解が生じているため、と考えられます。
現在の世界における神経学的研究は、失われた手足の機能回復よりも、ADL(日常生活活動)の自立に焦点を当てて取り組むべきであることを明確にしています。しかし全人間的復興のリハビリテーションが成功するには、機能回復も生活動作もどちらも重要です。そのために病院からの早期退院により、慣れ親しんだ環境で生活することをお勧めします。
しかしその環境に、機能回復のための適切な訓練を受けられる環境があることを前提とします。多くの場合、そのサポートは早く終了しすぎてしまい、患者および家族は次になにをしていくべきか、誰に助けを求めればよいか、分からないままです。外来治療や地域ケア、もしくはその欠如はサポート環境が整っていないという根本的な問題を解決しないまま、批判を受けてしまうことがあります。
リハビリでよく見受けられる例をご紹介します。A氏という男性は、入院時から機能回復のために取り組んでいましたが、途中で尾を引くように改善が止まりました。
上肢に重い障害が残りましたが、その後、外来でのセラピストのリハビリのもと、動かなかった手が棒を動かせるほどに回復したのです。
しかしその機能を生活につなげるという点で、適切な指導がなく彼は失敗し、ADLを実行するには不十分な状態でした。彼が上肢機能回復のための訓練に何年も費やしても、「生活面での適応の大切さ」に関して伝えた人はいませんでした。
ただ手の状態を向上させただけで、生活での課題をどう解決するか、という点に向き合っていなかった例といえます。
国家資格(作業療法士取得)
順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務後,
御茶ノ水でリハビリ施設設立 7年目
YouTube2チャンネル登録計40000人越え
アマゾン理学療法1位単著「脳卒中の動作分析」他
「近代ボバース概念」「エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション」など3冊翻訳.
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